第11章 護衛役
その音と匂いで屋敷に1人ではないことを思い出す。
杏(朝起きる時間を聞いたのはこのためだったのね。)
台所の方に視線を送る。
有り難いなー、と思いながら鍵のかかった部屋に身体を向けて額と右手を扉につく。
『おはよう。』
そのまま顔を洗いにいく。
──パシャパシャ
『ふぅ…。』
ポンポン、と手ぬぐいで顔の水分をとる。
それから心地よい音が響く台所へ向かう。
『祈里さん、音羽さん。おはようございます。』
ニコッ、と微笑んで台所へ入る。
祈「杏さま。おはようございます。」
音「おはようございます。」
杏の声に反応した2人が手を止めて振り返る。
祈里も音羽も隊服を着ていた。
『お2人は道着などは持ってますか??』
祈「いえ、持ってないです。」
音「私もです。」
『でしたら、私のものをお貸ししますね。』
祈「それは有り難いですが…なぜ道着を??」
首を傾げ、疑問を口にする祈里。
口には出していないが、音羽も同じような顔をしている。
『稽古をつけるときは道着のほうがいいかと思いまして。隊服は何枚もあるわけではないですしね。それに稽古をつける時間がいつできるかわからないので、できたら屋敷にいるときは道着でいていただきたいのです。』