第7章 ー天使の古巣ー
久遠が傷つけられたことは、もちろん木吉が悪いわけではないことくらい赤司は重々承知している。
しかし、久遠の過去を知った今、久遠が置かれた現状も知らずに淡い期待を抱き、都合の良い夢を見るお花畑のような木吉に現実を叩きつけたくなった。
「天野の足の怪我を一度だけ見せてもらったことがあります。足一本、上から下までひどい火傷だ。運動はおろか日常生活にも支障があるほどに。もう、二度と選手としてプレイすることなどできない」
一言一言、殴るように言葉を発する。
その度に木吉の目が見開かれていく。
―そうだ、もっと自覚しろ―
そんなお花畑みたいな夢はただの夢であることを。
久遠はずっと悪夢の中にいることを。
―もっと自責しろ―
やったことではなく、やらなかったことを。
救えなかったのではなく、救わなかったという事実を。
―久遠を守れない人間は、彼女に必要ない―
どこかでそんな声が聞こえたような気がした。
赤司は深く息を吸った。
「今後、そちらと試合会場が一緒になる時には天野は連れて行きません。何かの手違いで会場で見かけても天野には話しかけないでください」
一方的にそう伝えた。
もちろん急にそのようなことを言われても木吉が納得するわけもなく、
「でも…」
と何か口にしようとする。
そんなもの今の赤司からしたら聞く価値もない。
「登校した天野から連絡がないことが何よりの答えだとは思いませんか?」
そう言えばもう木吉が言葉を紡ぐこともなかった。
それを確認すると赤司は木吉に背を向けた。
もうこんな場所に用はなかった。
ここには久遠の過去しかない。
木吉にとっての記憶は、赤司にとっては記録でしかなかった。
それなのに、一刻もここに留まりたくはなかった。