第7章 ー天使の古巣ー
赤司は木吉の言葉を俄に信じられなかった。
あの久遠が、いつも穏やかで誰にでも優しい久遠が、天然でどこか抜けててニコニコとしている久遠が、誰かの妬みや悪意の的になることなど想像ができなかった。
「…それは…いつから、どのくらいの期間続いたんですか…?」
「…正直、いつからっていうのはわからない。ただ、隣で部活をやっていて気付くほどになっていたのは…そうだな…夏休み前だったと思う」
赤司はもしかしたら何の確証もない、木吉の勘違いなのではないかという一縷の望みすら抱いていた。
しかし、木吉の回答は現実味があった。
隣のコートで気付くほどの無視をされるとなると、事の始まりはもっと前であったに違いない。
「…久遠は木吉さんに相談したり、助けを求めたりはしなかったんですか?」
赤司はそんな言葉を言っておいて何だが、もう木吉の答えは予想できていた。
久遠という人間を知っていれば予想はできてしまう。
「…久遠は一度も俺に助けを求めなかった。無視されている事実すら認めなかった…それ以上のことをされても…」
「それ以上…?」
訊き返す赤司に木吉は黙った。
それだけでは済まなかったのか。
それ以上など人間関係のもつれでは済まされない。
そんなのは……
「それ以上とは何ですか?」
赤司の声色は木吉に黙っていることを許さないものと変わっていた。
木吉はぽつりぽつりと話し始めた。
「…夏休み明けくらいから…部活以外…クラスでも…嫌がらせを、されていたみたいだ…」
「どんな?」
「…無視されたり…物を隠されたり…」
「それだけですか?」
「……怪我を…していることもあった…」
赤司は思わず拳に力が入り、奥歯を噛み締めた。
「気付いていたんですか?」
噛み締めた奥歯の更に奥から低く冷たく脳に響くような声。
冷静でいなければならないのに、腹の底が煮えたぎる。
それが表に出ないように赤司は意識して呼吸を深く整えた。
「あぁ…部活後の自主練習は続けていたからな。でも…それでも久遠は助けを求めてはくれなかった…」
「……」
「気付いていたのに…俺は何もしてやれなかった…何かしていれば……あんなことにはならなかったのかもしれない…」