第7章 ー天使の古巣ー
「よく公園で一緒にバスケをしていたんだ。あいつ、バスケが好きだし、かなり上手いだろ?だから、中学に入ったらバスケ部に来るように話をしてた」
目を伏せるように地面を見ながら木吉はどこか懐かしそうに話し出した。
赤司も久遠がバスケを好きなことは知っている。
きっとバスケの才能が秀でていることも感じてはいる。
しかし、久遠が全力でバスケをしているところなどもちろん見たことはないし、今後一度として見ることはないと分かっている。
それだけにこの木吉の思い出話に再び胸の奥がチリチリしだす。
それでもそれを言葉にも表情にも出さず黙って木吉の言葉を聞く。
「話をしていた通り、久遠は入学したらバスケ部に入ってきたよ。けど、一年生は練習中ボールにも触れないだろ?久遠はそれに不満を漏らさなかったけど、俺はもったいないと思ったんだ。だから、部活が終わった後、一緒に自主練習をしたんだ」
バスケを通して二人の関係が築かれ、話が進むごとにそれは深まっていったのだということが木吉の話し方でわかる。
これは久遠に起こったことを知るのに聞く必要があるのだろうか?と疑問に思うほど赤司の腹の奥が重くなるのを感じていた。
しかし、
「それがいけなかったんだと思う」
と木吉の口調が一転して硬くなった。
赤司は思わず木吉の顔を見てしまった。
木吉の顔は口調同様、表情も固く、地面を見つめる瞳は奥の方で揺らいでいるように見えた。
バスケの試合ではどんなに苦しい状況や不利な試合展開でも決して折れない強い意志で、常にチームを支える鉄の心を持つあの『鉄心』が、である。
その後、木吉はしばらく黙ったままだった。
『鉄心』の心を揺らし、口を閉ざすほどのこととは何なのだろうか。
「…何があったんですか?」
なかなか話し出さない木吉に続きを促すように赤司が口を開いた。
木吉は覚悟を決めたように一度大きく深呼吸をする。
そして、
「…久遠は女子バスケ部の中で…無視、されるようになった」
言葉を選ぶように、しかし苦虫を潰したようにそう言った。