第7章 ー天使の古巣ー
体育館に着くと中ではバスケ部が練習の真っ最中だった。
体育館を男女で半分に分けて使っているようだ。
幸い女子が練習しているのは入り口側のため休憩時間にでもなれば声は掛けられるだろう。
その時が来るまで体育館の玄関ホールの壁に背をついて小説でも読もうと思い、カバンに手を掛けた時だった。
「お!見ない制服だな?転校生かー?」
明るくハツラツとした声が玄関ホールに響いた。
その言葉はもちろん他校の制服を着た自分に向けられているものなので、赤司はそちらに視線を向ける。
向けた先にいたのは見覚えのある人物だった。
(そうか…昭栄中は…)
そう目の前の人物の名前を思い浮かべるよりも先に、その人物が「あー!」と先程よりも更に大きな声を上げた。
「お前、帝光中の赤司じゃないか!」
ビシッと人さし指をこちらに向けている。
これがもし自分のチームメイトであったなら「失礼だからやめろ」と窘めることもするが、他チームの者なのでとりあえずは不問とする。
そして、目の前の人物を再度見る。
この人物は赤司より一学年上の世代のバスケプレイヤー。
その中でも特に秀でた『五将』と呼ばれるうちの一人。
(昭栄中の木吉…『鉄心』…)
ここらへんのバスケをやる者であればその名前くらいは知っている。
もちろん赤司くらいになれば顔も名前も知っている。
赤司が木吉の情報を頭に思い浮かべている間に木吉は距離を詰めてきて、
「俺は木吉鉄平だ!よろしくな!」
と右手を差し出してきた。
しかし、赤司はその名前を聞いて固まった。
昭栄中の木吉は知っている。
『鉄心』の名も知っている。
しかし、昭栄中の木吉が『鉄平』であることまでは失念していた。
だが、赤司は『鉄平』という名には聞き覚えがある。
『鉄平くんもねー』
久遠が紫原に高い高いをしてもらう時に時折口にしていた名前。
久遠が笑顔で口にする名前。
(『鉄平くん』は昭栄中の木吉だったのか…)
赤司がそんな思考をするのに固まったのはほんの一瞬のことで、次の瞬間には差し出された手を握って自らも自己紹介したので不審には思われてないようだった。
唯一と言っていいほど久遠が親しげにその名を口にする人物である。
木吉は久遠の過去を知っているに違いないと赤司は当たりをつけて、カマをかけてみることにした。