第6章 ー天使の穏やかなる放課後ー
だから、律が突拍子もなく老婆を助けるなんてことは赤司にとってみれば想定内なのだが、突然いなくなるのだけにはいつも驚かされる。
そのたびに、他人のために自分のもとから躊躇いもなく離れていく律にとって自分もその他の人間と変わらず、律の特別ではないことを思い知らされる。
それには何とも言えない思いを抱えながらも一緒にいることをやめられないでいる。
それはきっと…
「本当にありがとうね」
バスに乗り込んだ老婆に荷物を渡すと、本当に嬉しそうに礼を言ってきた。
それに赤司は「いいえ」とだけ返した。
律は赤司の横で「おばあちゃん、元気でね!」と、まるで祖母を見送りに来た孫みたいに元気に手を振っている。
老婆もそれに手を振り、赤司には一礼をしてから車内に消えていった。
「親切じゃねーか、赤司」
バスが走り去るとそれを待っていたかのように後ろから声をかけられた。
声の主はバスケ部部長の虹村で、こんなところで声をかけられるなんて思ってもみない赤司は一瞬驚いたが、それでもかけられた言葉への返答としては「なんのことですか?」だった。
「照れるなよ。わざわざ通学路とは別のところまで運んでやるなんて偉いな」
虹村の第一声をかけられた時から、この件に関して賞賛されるべきは自分ではないと認識している赤司は肯定はしない。
しかし、賞賛されるべきは律であるとの訂正もしない。
なぜならそれは律の望むところではないということを赤司は知っている。
自分のした行為を“親切”という言葉にされてしまえば、きっと律は困ったように笑って自らそれを否定するだろう。
そんなことは律にさせたくなかった。
だから赤司はその話題をそらせるような言葉を吐くしかなかった。
「虹村さんも通学路とは別ですよね?」
「まあ、いろいろあるんだよ」
虹村もそれ以上説明したくないのかはぐらかすように返答する。
そこで初めて赤司の隣に律がいることに気づいた。
「ああ、橘もいたのか。あ、そゆこと」
律を見て、赤司が通学路とは別の方向にいたことを勝手に理解したようでそれ以上は深く突っ込まず、「途中まで一緒に行くか」と歩き始めたのだった。