第6章 ー天使の穏やかなる放課後ー
きっとこの老婆に気づいたのが歩行者信号が点滅していた時なのだろう。
急いで老婆に近づき、笑顔で声をかける律の姿が想像できる。
「すまないねー。私がモタモタと道を渡っていたばっかりにお友達にも心配かけちゃったねー」
老婆も申し訳なさそうに頭を下げている。
「違うよー。おばあちゃんは悪くないよー。律がね、赤司くんに言ってこなかったのが悪いんだから」
珍しく慌てた様子で老婆にフォロー入れている律に赤司は顔が綻ぶのを感じる。
そして、そろそろ自分もフォローしてやろうと口を開く。
「大丈夫、怒ってはいないよ。少し驚いただけだ。それよりもどこかに行く途中だったんじゃないか?バス停とか」
きっと横断歩道を渡すことが目的ではないはずだ。
でなければ、もうすでに横断歩道を2つ越え、さらに手を繋いで歩いていることなどはないだろう。
進行方向を見ればそう遠くないところにバス停が見える。
「そうなのー。おばあちゃん、バスの時間、大丈夫?」
「大丈夫じゃよ。それにお友達も来たみたいだし、ここまでで大丈夫じゃよ」
「バス停、すぐそこだから一緒にいくよー」
ニコニコしながら「いいかな?」なんて見上げられれば、無下に扱うことなんて赤司にはできなかった。
だから赤司も少し微笑んで「そうしようか」と了承する。
そして、律が抱えている老婆の荷物を赤司が持ち、律は老婆を支えることに専念させた。
バス停まで送り、ついでだからとバスが来るまで一緒にいることになったが律が会話の橋渡しをしてくれるため会話が途切れることはなかった。
これも学校では見られない律ある。
学校では皆の話の聞きに回る律は自分からその場の会話を回すことはほとんどしない。
場にそぐわぬ発言や質問に質問で返したりするときもあって、天然と思われることも多々ある。
しかし一歩外に出れば困っている人には躊躇なく声をかけるし、商店街を歩けばいたるところで声をかけられるほど知り合いも多かった。
律とたまに一緒に帰るようになったこの短い期間で、赤司もそれらの人々と関わる機会が増えていた。