第1章 プロローグ ー天使は飛び立つー
「本当に上手いもんだなー。キミ、名前は?」
律の頭を大きな手でワシワシと撫でながら鉄平が尋ねる。
律は撫でられて嬉しそうに鉄平を見上げると「律」とだけ答えた。
「律っていうのかー。律は小学校4年くらいか?」
「んーん、違うよー」
「あぁ、じゃあ3年生か?3年生なら背は大きい方かもなー」
なおもニコニコして律の頭を撫でながら「これからもっともっと大きくなりそうだなー」なんて言ってる鉄平に、律もニコニコしている。
「んーん、違うよー。律はね、6年生だよー」
笑顔の律につられて鉄平も笑顔のまま「?」と一瞬止まったが、その言葉をようやく理解したのか表情は驚愕のものに一変した。
「そ、そうなのか!?てっきり3・4年生くらいだと…まさか1つしか違わないなんて…すまなかった!」
バッと体が直角に曲がるほど勢い良く頭を下げる鉄平にも笑顔で「いいよー」と特に気にした様子のない律。
「律、ちっちゃいからよく間違われるんだー」
えへへと笑う律にすまなそうに眉を垂れていた鉄平も笑顔になった。
「そうか、6年か。じゃあ、律は来年、中学校に来るんだな」
「うん!」
「中学でもバスケはやるのか?」
「うん!」
「そうか、それは楽しみだな。女子の方にも機会があったら伝えとくよ、期待のルーキーが入るって」
「うん!ありがとー」
それからというもの、時々鉄平も公園に来て一緒に練習するようになった。
といっても、普段は部活があるから鉄平が公園に来るのは部活が休みの日やテスト前の部活動休止期間に、という感じだ。
いつだったか律は小さい頃はいつも兄に高い高いをしてもらっていたことを話したところ、それ以降は鉄平も会うたびに高い高いをしてくれるようになった。
そんな鉄平を律は兄のように慕っていたし、早く中学校に入ってもっと一緒にバスケが出来るのを楽しみにしていた。