第6章 ー天使の穏やかなる放課後ー
いつもの柔らかい笑顔が何かを全て受け入れ、包み込むものであって他人の為のものだとしたら。
顔を撫でられたときの嬉しそうな笑顔は律自身の本当の感情の表れを感じる。
それを見れば赤司だって悪い気はしない。
むしろ、自分の心も和らぐ気すらする。
だから、赤司にとって律と過ごすのは貴重な時間であるし、できるだけ一緒に居たいと願うのは至極当然なことで、誰にも邪魔されたくないのである。
それなのに、ちょうど交差点を曲がって目に入った黒塗りの高級外車に内心舌打ちをした。
赤司が横を通るちょうど良いタイミングで中からスーツに身を包んだ男が一人降りてきた。
「征十郎様、お迎えにあがりました」
やうやうしく頭を下げる男性に、先ほど律に対するものとは打って変わって冷たい視線を投げる。
「送迎はいらないと言ってあるだろう」
「そう言われましても・・・今日からテスト期間に入られるので早く帰宅されるようお父上から仰せつかっております」
「テスト期間は明日からだ。それに今日は友人も一緒なんだ」
「では、ご友人もお送りします」
男性は心底困ったというような表情で食い下がる。
それに対しても赤司は眉を寄せて不機嫌さを露呈するが、溜息を一つつき顔面から力を抜くと、律に向き直った。
「だ、そうだ。橘、乗るか?」
ここで律が遠慮するであろうことは予想している。
そうすれば一先ず目の前の邪魔者を追い払うシナリオは赤司の中で出来上がっていた。
「んーん、律は歩いて帰れるから大丈夫。せっかく迎えに来てくれてるから赤司くんは気にしないで帰って?」
想定していた完璧な返答をした律に、赤司はナイスアシストとばかりに口角を上げた。
どうやらつい先ほど描いたシナリオが使えそうだ。
「そうはいかないよ、橘」と前置きを入れ、スーツの男性に視線を戻す。
「オレは彼女を送っていかなければならない。それとも赤司家の人間たる者が夕時に女性を一人で帰して自分はのうのうと車で帰れと言うのか?」
「…女性、ですか?」
赤司が友人であるという人物の制服はズボンであり、しっかりネクタイまで締めている。
その出で立ちと赤司の発言のミスマッチに男性は首を傾げた。