第6章 ー天使の穏やかなる放課後ー
練習終了後、桃井は今日のメニューと各選手についてのメモを取っていた。
その横で律も自分のノートに選手たちのボディデータを書き込んでいる。
桃井の取る選手のデータはとても正確であるが、律の取っているデータも優れたものである。
しかし、大きな違いは桃井のデータは誰にでも分かりやすくまとめられているのに対して、律の記録は律しか分からないような表現ばかりで彼女の説明なくしては理解ができない。
それでも、当の律はまるで子どもがお絵かき帳ででも遊んでいるように楽しげにペンを走らせている。
そんな律を横目に見ながら、本当に不思議な子だな、と桃井は思っていた。
そんな桃井のもとに「桃ち〜ん」と彼女を呼びながら近づく大きな影。
「ムッ君!そのよびかた、イヤだっていつも言ってるのに!」
桃井は自分につけられたニックネームが気に入らないとむくれて抗議するも、そんなものはなんのそのとばかりにやり過ごす紫原。
「呼びやすいし、かわいいし、よくね?ね、橘ちん」
今まで話にも入らずたのしそうにノートに向いていた律はそこでようやく顔をあげて柔らかく微笑んだ。
「うん!かわいいと思うよー」
ノートに夢中になってると思いきや、ちゃんと会話も聞いていたらしく、しっかり返答してきた。
その言葉に「やっぱり〜」と満足げにしている紫原を桃井はジロリと睨むとさらに猛抗議してみたが、どんなに言ってものらりくらりと受け流す紫原についぞ諦め、話題を変えることにした。
紫原は赤司からの伝言を伝えに来たようで、その伝言を聞いた桃井はワンテンポ置いてから絶叫を体育館に響かせた。
あまりの声量に律も一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの笑顔になって、「桃ちゃん、嬉しそう。よかったねー」と祝福していた。