第6章 ー天使の穏やかなる放課後ー
その後、桃井と黒子がどうして見学することになったのかを話している横で律はいつも通りニコニコしながらただその様子を見ているのだった。
先輩にも見学しているように言われた黒子は「今日はテスト前、最後の練習なのに…」とため息混じりに呟く。
「んー、基礎練習だけだし、手を使わない練習だったらやっても良さそうだけどー、あ、でも、腫れが出たらダメだからやっぱりやめといた方がいいかなー」
律がにこやかに、しかし黒子にだけ聞こえるくらい小さな声で呟いた。
その言葉に黒子は目を見開く。
「どうしてですか?」
「え?」
黒子の言葉に今度は律が不思議そうに目を丸くする。
そして、さも当然そうに言葉を返す。
「だって、右手、悪くしちゃダメかなってー」
それを聞いて黒子は再びため息をついた。
そして、桃井がこちらの話を聞いていないことを横目で確認すると律の方に顔だけ向けて、これまた桃井に聞こえないように小さな声で「なんで僕が手を痛めていることがわかったんですか?」と尋ねた。
「んー、だって、さっき桃ちゃんと話してたとき右手首をちょっと気にしてたみたいだったから。テーピングの跡もついてるしー、ちょっと強く巻き過ぎちゃったのかもー」
先程の桃井との会話をただ聞き流しているのだと思っていたが、律が意外にも鋭く観察していたことに黒子は驚いた。
そんなことには気づいていないのか律は「赤司くんにもバレちゃったー?」と訊いてくる。
「はい、さっきテーピングをはがしているところを見つかってしまいました」
「だから見学になっちゃったんだね」
ふふふと笑われてしまえば黒子は何も言い返せなくなってしまう。
コートではパス&ランをやっていて、青峰がゴールポストの裏からシュートを入れて歓声が上がった。
「相変わらず、めちゃくちゃなんだから…」
苦笑いの桃井の独り言に黒子も相槌を打つ。
「やっぱり青峰君はすごいですよ」
「そうだよねー。青峰くん、かっこいいよねー」
律も黒子に同意する。
が、桃井はその言葉に過剰に反応した。
それもこれも部活に来る前にした友人との会話のせいなのだろう。