第6章 ー天使の穏やかなる放課後ー
明日から中間テスト前期間に入る帝光中学校。
11日間という長い期間、部活動が出来なくなるというのに今日の練習は基礎練習のみという決定を赤司が下したばかりだった。
いつものように激しい練習であるのならばしっかりと練習の様子を見る必要がある律だが、基礎練習のみとなると部員の疲労も軽度であるため出番があまりない。
しかし、それでも赤司は律に通常のマネージャー業務ではなく、いつものように体育館のフロア内にいるように指示していた。
何にでも従順な律は赤司の指示に異を唱えることなどもちろんなく、いつものようにノートを携えてコートの脇に佇んでいたが、そのノートは開かれることはなかった。
その後、桃井が体育館に入ってきた。
「桃ちゃん、いつもより遅いね。めずらしいね」
律が笑顔で声をかける。
一歩間違うと嫌味にも聞こえがちなフレーズであるが、律にかかれば無邪気な声かけになるから不思議である。
「あぁ、りつちゃん、ごめんね?友だちにつかまっちゃって。何か変わったことあった?」
「んーん、特にないよー」
「いやいや、橘。変わったことあるだろう…桃井、今日は基礎練習だけで終了だよ」
ニコニコしながら答えた律であるが、近くにいた3年生が苦笑いしながら訂正した。
何でも受け入れてしまう律にしてみれば赤司が1日の練習を基礎練習のみと言えばそれほど気に病むことではないが、バスケを愛してやまない部員たちにしてみれば十分一大事なのだ。
先輩の訂正で思い出したように「あ、そうなんだよー」とニコニコしている律は置いておいて、桃井は事の詳細を先輩に尋ねていた。
そして、その決定は赤司が提案したものだと知り、赤司の真意に思考を巡らせていた。
その中で、赤司が見出した幻のシックスマンである黒子の姿を探し始めたその時。
「あの……その判断と僕が見学って、関係あるんですか?」
桃井と律の間で今まさに探していた黒子の声がした。
桃井は驚いて体を跳ね上げていたが、律は声のした方に視線を向けて「あ、テッちゃん」と大して驚いた様子もなくその名前を呼んだ。
黒子も桃井が驚いているのを気にすることなく、「どうも」と普通にあいさつをした。