第5章 ー天使の祝福ー
「橘っちー!」
昼食時間で混雑する食堂に黄瀬の声が響いた。
校内でも目立つ存在である黄瀬がそんなことをするものだから、その場にいるほとんどの生徒が黄瀬に注目している。
律はというと、既に席についており、目の前のオムライスに目を輝かせ、ルンルンと肩を弾ませていた。
今日は週に何日かあるバスケ部メンバーと一緒に昼食を取る日である。
この日ばかりはいつも昼休みであろうと忙しく動き回っている赤司も食堂で皆と食事をする。
その赤司は注文でもしに行っているのかまだ着席していない。
黄瀬は空いていた律の隣の席に腰掛けた。
「黄瀬ちゃん、ご飯はー?」
食堂のお盆を持っていない黄瀬に律は不思議そうである。
「オレはこれッス」
そう言うと顔を近くまで持ち上げたのはゼリー飲料だった。
誰も聞いていないのに、モデルだから〜やら、食べ過ぎるわけには〜とかのたまっている。
律はそんな話にすら「そうなんだー」とニコニコしているものだから、気を良くして話を続けるのだ。
「でも、黄瀬ちゃんは成長期だからバランスのいいご飯を食べた方がいいよー」
一通り話を聞いたところで律の一言。
責めるでもなく穏やかに久遠がそう言えば黄瀬は目を輝かせた。
「橘っち、オレのこと心配してくれるんスね!橘っちがそう言うならオレも何か注文してこようかなー」
「そうか、それならそこの席からどいてくれないか?黄瀬」
後ろから聞き覚えのある声がする。
振り返るとお盆を持った赤司が見下ろしていた。
その冷たい視線に顔が引きつる。
「そこはもともとオレが橘に取っておいてもらった席だ」
なかなか退かないので赤司が追い打ちをかける。
審判は如何にと律を見れば、二人の不穏な雰囲気など気づいてもいないようにニコニコしながら「そうだよー」と頷かれてしまったので渋々席から立ち上がった。
ふと見ると律の反対側の隣の席も空いている。
「あ、じゃあ、そっちの隣…」
「ここはオレの予約席だからダメ〜」
黄瀬が言い終わるより先にのっそり現れた紫原が両手に持っていた2つのお盆をドカッと置いた。