第5章 ー天使の祝福ー
「黄瀬ちゃんも普段はこの姿勢ができてるんだけど、とっさの時に腰が浮いちゃうから潜りやすかったんだー」
「こればかりは練習で体に覚えさせるしかないので、今年からバスケを始めた黄瀬君はある程度は仕方ないと思います」
「練習の最初にやってるフットワークの基礎練習は大変だけど、すっごく大切なんだよー」
「そうなんスね。アレ、めっちゃキツイからぶっちゃけ好きじゃないんだけど…これからはもう少しマジメにやってみるッス!」
「黄瀬君、今まで手を抜いていたんですか?」
教育係としての黒子のジトーとした視線が刺さり、苦笑いをしつつ律の反応を見る。
こちらは「がんばろーねー!」とにっこり笑っているものだから一瞬で癒やされた。
そんな律の後ろに赤い影。
黄瀬が知らせるよりも先にその人物は、
「何を頑張るんだ、橘?」
と律の肩に手を置いた。
黒子の登場にも動じなかった律であったが、それにはビクリと体を跳ね上げ、「ふぁ!?」と声まであげていた。
その理由を既に赤司は検討がついていた。
「橘、黄瀬と1 on 1をやったのか?」
そう尋ねれば、
「うん!律がやろうって誘ったのー」
と、どことなくいつもよりも早口になっているように感じる。
黄瀬に非がないことをすぐさま取り繕ったようだ。
火傷のせいで運動制限があることを知っている赤司に1 on 1をやっていたということで何か注意を受けるのではないかと思いを馳せてのことだろう。
今回はその気持ちを汲んでやることにした。
「そうか。桃井が探していたからランドリールームへ行ってくれ」
律は何のお咎めもないことを感じて安心したのか、「はーい」と元気よく返事をしてその場を離れていった。
心持ち左足を庇うように歩いていることに気付いているのは赤司だけだろう。
そのくらいの小さな変化だったため、赤司は何も言わずに見送ることにした。
次の日、律が学校を欠席したことを赤司が知ったのは放課後練習が始まる前だった。
もちろんその欠席の理由が思い当たっているのも赤司だけだった。