第4章 ー天使と巨人ー
しかし、律は何か思い当たったようで、笑顔を崩すとシュンとした。
「ムッくん、今日、律のせいでラン、増えちゃってごめんね」
眉が下がり、困ったような表情で紫原を見上げてくる。
紫原からしてみれば、そんなこともあったな、という感じになっていた。
確かに更衣室を出たときはいつもよりグッタリした感じがあったが、律と会って、他愛ないやり取りをしている間にそんなことは忘れてしまっていた。
「んー、まー、もとはといえばオレが橘ちんのおっぱい触っちゃったのがいけなかったんだしー。別に橘ちんが謝るようなことじゃないんじゃないー?」
その言葉に律は難しい表情をして、下を向いた。
「律、おっぱいないけどなー」
何かと思えば、神妙な面持ちで自分の胸をペタペタと触っている。
きっと頭に思い描いているのは桃井の胸なのだろう。
「まー、桃ちんと比べたら無いに等しいよねー」
「そうだよねー」
恥ずかしげもなく、まるで他人事のように同意してくる律に紫原は何だか気が緩んでしまう。
普通の女子であれば、そんなことを言ったものなら「ひどーい!」とぷりぷり怒って面倒くさい。
女子が自分のことを貶されたときの面倒くささは姉でもう学習済みである紫原は、律の反応は新鮮でもあるし、一緒にいて心地が良い気もしていた。