第4章 ー天使と巨人ー
次の日。
今日も練習開始前のシュート練習をするべく紫原はゴール下でシュートフォームに入った。
その瞬間にデジャヴな違和感を感じて視線を下げる。
予想通り、そこには律がいて、昨日と同じようにキラキラと目を輝かせながらTシャツを握りしめている。
紫原は大きく溜息を吐いた。
「アンタさー、昨日オレが言ってたこと聞いてた?」
「ひねりつぶすよ?」と言おうとしたところで、律が紫原に向かって手を挙げた。
昨日と違うのは挙げられているのが右手だけであるのと、その手に何かが握られていることだった。
律の手にする物を見ると『まうい棒 にんにく味噌味』と書かれている。
「え、これ。新しい味ー?」
「うん!」
「これ、食べていいのー?」
「うん!」
律からまうい棒を受け取ると、その場で包みを開けて2口で食べた。
少し離れた3Pラインから緑間が「コートで菓子を食べるな!」やら「橘、紫原に菓子をやるんじゃない!」とか叫んでいるが、両人の耳には届いていない。
「…お菓子もらっちゃったから、ダンクさせてあげてもいーよー」
昨日は殺気を放つほど拒否していたのに、まうい棒で餌付け済みの紫原は穏やかそのものだった。
まうい棒の包装紙をハーフパンツのポケットに突っ込むと、自分が使おうとしていたボールを律に持たせた。
そして、律の脇を持ってひょいと持ち上げた。
「わぁー!」
「うっわ、軽っ!何食べるとそんなにひょろっひょろになれんのー?まぁいいや、早くダンクしなよー」
「うん!」
律はガコンッとボールを入れるとそのままリングを掴んでぶら下がった。
何度かぶらぶらしたところで、いつの間にかゴール下まで来ていた緑間が「リングにぶら下がるな!邪魔なのだよ!」と律を掴み、下に降ろした。
「ミドちん、細かいしー。ちょっとくらいイイじゃんねー?」
「ねー」
そう言って、紫原と律は顔を見合わせた。
紫原はいつもの気怠げな顔だったが、律と目が合うと少しだけ微笑んだ。
「またお菓子くれんなら、高い高いやってあげてもいいけどー?」
「うん!ありがとー!」
律は嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、「わーい」と子どものように飛び跳ねていた。