第4章 ー天使と巨人ー
紫原が自分の存在に気付いたとわかると、目だけではなく顔全体がパァッと明るくなった。
そして、何かを期待するように紫原に向かって両手を掲げていた。
紫原はそれを数秒見つめて再び声を上げる。
「赤ち〜ん、このちんちくりん、何なのー?」
「いや、オレにもわからないな。橘、どうかしたのか?ちゃんと言葉にしないとわからないよ」
そう赤司に言われると律は「あ、そうか」と呟いて、再び紫原を見上げる。
「あのねー、律、ムッくんに高い高いしてもらって、ダンクしたいんだー」
律はニコニコと至って無邪気な笑みを浮かべている。
それに反して紫原は顔を顰める。
「は?何言ってるの?なんでオレがそんなめんどくさいことしなきゃなんないワケ?」
「へ?」
紫原が迷惑そうな顔をすることが至極不思議だ、どうして高い高いをしてくれないのか、といった律の表情に紫原はさらに不機嫌になっていく。
「なんでオレがアンタを持ち上げてダンクさせなきゃなんないの?」
「んー、ムッくんが1番背ぇ高いからー?」
「は?何それ?てか、質問を質問で返すなし…ひねりつぶすよ?」
いよいよ紫原から殺気が滲み始めた。
紫原の体格もあいまって普通であれば圧倒される者がほとんどである。
しかし、律にそのような様子は見られない。
むしろ少し口をすぼめて不服そうな表情にすら見える。
「とにかく、オレに全然メリットねーし、めんどくさいし。絶対やんねーし」
そう言うとTシャツを掴んでいる律の手を振り払って、ドスドスと向こうへ行ってしまった。