第1章 プロローグ ー天使は飛び立つー
律がバスケットボールと出会ったのは2歳の時だった。
歳の離れた兄が中学校でバスケ部に入ったのを機に庭にバスケットゴールが立てられた。
兄が練習するその横で律はそれを楽しそうに見ていた。
転がるボールをトテトテと覚束ない足取りで追いかけたし、止まっているボールを兄のドリブルを真似するようにペチペチと叩いていた。
そのことを律自身は覚えていないが、そのような写真が数多く残されていた。
律が覚えているのは、高校生になった兄が勉強の合間の息抜きに庭でシュートしているのを横で見ていたことだ。
その時には兄に高い高いをしてもらい、ゴールリングにボールを入れさせてもらったことを鮮明に覚えている。
律が小学校に入る頃には兄は大学生になり、庭でバスケをすることはなくなった。
それでも置き去りにされたボールとゴールで、たまに1人でバスケをしてみた。
初めはドリブルすらまともに出来なかった。
シュートをひどく外し、窓ガラスを割ったこともあった。
そんなゴールポストも律が小学2年生の時に、近年稀に見る大型台風で壊れてしまい、撤去された。
それ以降、バスケットボールはあるものの、それを使うことはなくなった。