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【黒子のバスケ】帝光の天使(中学校編)

第3章 ー天使は才を慈しむー


体育館に着くと橘はボールケースを出して、ドリブルをしていた。
その表情はどこか嬉しそうな、楽しそうなものだった。

「橘、1本だけ打ってみたらどうだ?」

赤司がそう提案すると、さらに嬉しそうな顔をして「うん!」と返事をした。
そして、3Pラインに立つと特に狙いを定める感じもなく、ポンッとボールを放った。
ただ放られたようなボールなのに真っ直ぐゴールへ飛んでいき、バックボードに当たるとゴールネットを揺らした。
いつの間にかゴール下に移動していた橘は、ゴールネットを潜ったボールをキャッチするとそのままフックシュートで再度ゴールを決める。
一連の流れを見ているだけで橘がかなり上手いプレーヤーだということがわかる。
そして、バスケをすることが好きなのだ、ということも。
どうしてマネージャーに甘んじているのかが不思議なくらいだ。

「橘、1本と言っただろう?それでは2本じゃないか」

「あ、本当だー」

えへへといつもの笑いを浮かべる橘は、先程の見事なプレーをしていた人物とは思えない。
そんなオレの視線を感じたのか、橘はオレの方を振り返ると自分の持っているボールをパスしてきた。
なかなか良いパスだ。

「緑ちゃんもシュート打ってみてー」

橘の言うことをそのまま聞くのは面白くないが、打たなければ体育館に連れてこられた狙いに辿り着くのが遠のくだけだと判断して素直に応じることにする。
もちろんシュートはボールがリングに触れることなく決まった。
いつも通り、完璧なシュートだ。
これのどこにケチのつけようがあるというのか。

「緑ちゃんのシュートはキレイだよねー」

リングを潜ったボールを手にしてオレのところまで戻ってきた橘は、ボールを床に置くと再びオレの左手をとった。
今回は橘が近付いてきた段階で心構えはしていたので驚きはしなかったが、それでも鼓動が強くなるのが気に入らなかった。
そんなオレをよそに、橘はどこから取り出したのであろうか爪ヤスリを手に、オレの爪を整えた始めた。
何かを確認するようにたまに自分の指で削った爪先を撫でながら、何度も角度を変えて眺めながら。
数分の時間が何とも居心地が悪かった。

「できたー!これでまたシュート打ってみてー」
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