第2章 ー記憶の中の天使ー
そんなことを思い出しながら目的の場所まで辿り着くのに5分ほどかかった。
室内から見えた人物はその時と変わらぬ格好で、やはり視線はサッカーをやっている生徒に注ぎながら、たまにノートに何かを書き込んでいた。
近くで見れば見るほど赤司の記憶の中の少女との共通点が増すばかりだった。
明るい色の髪は短く、一房ずつパーマのように癖がついている。
瞳は明るい茶色で、クリッと大きく少しだけ垂れ目。
小さく細い体。
色が白くて貧弱な印象。
しかし、投げ出された下半身は男子の制服ズボンをはいているところだけが赤司の記憶と相違するところだった。
「そこの君」
それでも赤司はその人物に声をかけることに迷いはなかった。
目の前の人物はワンテンポ遅れて顔を上げた。
驚きでさらに大きく開かれた目に赤司の姿が映り込む。
赤司を見上げ、さらにワンテンポ遅れて、言葉なくただ頭の上に?を浮かべて首を傾げた。
自分がどうして話しかけられたのかという問いを視線だけで投げかけてくる。
「君、見かけない顔だね。転校生かな?」
赤司は至って紳士的に、親しみやすい笑みを浮かべる。
つられるように目の前の人物も柔らかく笑う。
それを見た瞬間、赤司の予想は確信に変わった。
「そうなんだー。2年生から転校してきたのー」
誰からも好かれそうな表情に、可愛らしい声、のんびりとした人懐っこい口調。
転校生であってもこれならすぐに馴染めそうなものだが、昼休みにこんなところで一人でいるのは不思議だし、サッカーをしている人を見てノートに何を書き込んでいるのかも赤司は気になった。
しかし、赤司が質問したのはそれらではなかった。