第1章 異変
「さて、僕達はみんな自己紹介を終えたのだから君たちも自己紹介をしたまえ。それが礼儀というものだろう?」
斎宮さんだったか、未だに薔薇を鬱陶しそうに眺めている彼は厳しい口調で私達に指示するように言う。
「わかってるって。オレはエース。エース・トラッポラ」
エースが人当たりの良さそうな笑顔で自己紹介をしている。
ほんと外面だけはいいんだから……。
さっき深海さんを助けたのだって、絶対なにか企んでいるに違いない。
「ほら、お前もさっさと自己紹介してやれよ。待ってんじゃん」
「言われなくても」
急かされて若干不機嫌になりながらも、服装を軽く整え姿勢を正すと礼儀正しく自己紹介を始める。
「僕は、デュース・スペードと言います。よろしくおねがいします」
デュースはお辞儀をしてから、視線を下に向ける。
私も下を見ると、そこには目をぎゅっと瞑り私の足に隠れるモンスターの姿が。
「静かだと思ったら……。なんだ、びびってるのか?」
「そ、そんなわけないんだゾ! 別に、幽霊だったらどうしようとかそんなこと思ってないんだゾ」
早口でまくし立てる猫型モンスターに、私は苦笑しながら大丈夫だと言うと、恐る恐る目を開くとほっとしたように前に出た。
「オレ様はグリム様! 最強の魔法士になるために生まれてきたモンスターなんだゾ! どうだ、すごいだろ!」
いつも通りのグリムを見届け、6人に視線を向けると、それぞれ目を見開いたり、口を開けたりと驚いた様子だ。
それもそうだ。私だってそうだったんだから。
まさか、猫が喋るなんて思うはずがない。
……ん?
「ほら、最後オマエの番なんだゾ! こいつはな、オレ様の子分の……」
頭に1つの考えが浮かんだが、待ちきれずに私を子分として紹介しはじめたグリムに、私は慌ててその言葉をぶった切って自己紹介することにした。
うっかり女子だとばれないように。
ここは男子校なのだから。
「子分じゃないです。ユウといいます。よろしくお願いします」
私もデュースと同様にお辞儀すると、あちらも満足そうに笑ってくれた。
「うむ、よろしく頼むぞい」
朔間さんがまとめるように言った。
先程言っていたように、やはり彼にまとめ役は適任だなと思った。