第1章 異変
「そういえば、アンズはアイドルのプロデューサーってやつなんだよな? なんなんだそれ?」
グリムは私と同じソファに座ると、ツナ缶を開けようとしながら聞いた。しかし、猫の手では開けづらいらしく、一向に開く気配がない。
私はその缶を取り上げると開けて、グリムに返した。
ところでそのツナ缶は、一体どこから出てきたんだろう。
「アイドルをプロデュースする仕事をしている人のことです」
「プロデュース? ……プロのデュース?」
首を傾げながら寒すぎるオヤジギャグのようなことを言っているグリムに苦く笑う。
「えっと、アイドルがライブをする時にどう演出するかとか、私の場合はですけど衣装も作ります」
「衣装も? そういうのって業者に頼んだりするものじゃないんですか?」
演出だけでも考えると大変そうなのに、衣装までとなると、とんでもない労働だろう。
想像するだけで疲れてしまいそうだ。
「そういうこともできますけど、私は作りたくて。それに、必ずしも1人で作っているわけじゃありませんよ。斎宮先輩ともう1人の先輩に手伝ってもらうこともあります」
そう語る彼女は何となく楽しそうに見えた。
「こだわりなんですね」
「そうですね」
にこりと笑うあんずさん。
本当にその仕事が好きなんだろうなと思う。
「それで、というわけじゃないんですけど」
と、あんずさんは真剣な顔になる。
どうしたんだろう。
「なんですか?」
「採寸、させてもらえませんか?」
え、と私は驚く。
別にアイドルでもなんでもない、変わったことといえば異世界人だというだけの私の採寸を、なぜしようというのだろう?
減るものでもないから、まあ。
「いいですけど……」
「失礼します!」
言うとポケットからメジャーを取り出し(どうやら、いつの間にか学園長からもらっていたらしい)、私の体を測り始めた。
その目はとても輝いている。
この人もなかなか変わった人なのかもしれない……、なんて思っていると、彼女は嬉しそうに言った。
「私、衣装を作るのも好きなんですけど、こうやって測るのも好きで。……あ、やっぱり」
なにかに気がついてしまったあんずさんは、私の隠し事を簡単にも見抜いてしまっていた。
それはそうだ。
だって、体を測ったからには、それは必然なんだ。
「女の子、ですね?」
