第1章 異変
見渡す限り現実では有り得ない、異様な光景が広がっていた。
宙に浮く無数の棺桶。
部屋の中心にこれまた浮いている大きな鏡。
しかし自分が全く浮く気配が無いあたり、重力のない空間にいる訳では無いようだ。
では、これは一体……?
考えていると、ひとつの言葉が脳裏をよぎる。
「魔法……。ボクの専門としているものとはまた別の、物語の中でよく見る類のものかもしれないネ。存在するだなんて思っていなかったから正直困惑してるんだけド」
私と同様辺りを見回していた、同じクラスの赤髪の少年が私の思った事と同じことを言った。
すると、この真っ暗な部屋と正反対な髪色で正直浮いてしまっている(そうでなくとも浮くけど)先輩が目の前にいる人達と……、狸?を示す。
「驚いているのは、どうやら私達だけでは無いようですよ?」
私はそう彼が言ってくれるまでそこに人がいることに全く気が付かなかった。
それは私だけだったようで、他の4人は分かっていると言いたげに頷いた。
やはり、かつて学院最強と謳われた彼らなだけありこんな状況でも冷静さを失っていないようだ。
私も見習わなくては。何かあった度に冷静さを失ってしまっては、大事なアイドルを、仲間を不安にさせてしまう。
「あ、あのー」
ハートのフェイスペイントをした少年が口を開いた。
「あんた達見た事ない制服着てるけど、どこの人? なんでここにいんの? その棺桶……なに?」
質問を一気にぶつけてくる彼に、スペードのフェイスペイントをした少年が叱るように言う。
「そんなに一気に聞かれたら困るだろ」
「だって気になるし。それに、何も分からない状態でいる方が困ると思うんだけど」
「まぁまぁ2人とも」
そこに男の子にしては少し高い声をした少年がなだめるように言った。まぁ、私にとってはそこまで珍しいとは思わないけど。