第1章 異変
そこには、沢山の薔薇の木と迷路のような庭園があり、その庭園の奥に寮と思われる立派な赤い建物はあった。
鏡は寮の目の前に送ってくれるようになっているらしい。もしも迷路を通ることになっていたらと考えるだけで頭が痛くなりそうだ。
「話は聞いたよ。よく来たね。ここはハートの女王の厳格な精神に基づく、ハーツラビュル寮。そして、ボクは寮長のリドル・ローズハートだ。よろしく頼むよ」
そう声をかけてくれたのは、噴水の前で待ってくれていたのであろう真っ赤な髪が綺麗な小柄な男の子。寮長というからには歳上なのだろうが、可愛らしい見た目をしている。
それじゃあ行こうか、とリドルさんは私たちを引率してくれる。
なんだか遠足みたいで楽しい。
それにしても、この声どこかで聞いたような聞かなかったような。
「ん?」
リドルさんは何かに気が付き突然立ち止まると、顔を真っ赤にして怒り始めた。
「キミ! 『フラミンゴの餌やり当番はピンク色の服を着用すること』と、ハートの女王の法律・第249条で決まっているはずだろう? 何故着ていないんだい!? もうこれ以上は見逃せないよ!」
あまりにも突然の事だったので、私は驚きで何も言えなかった。
ユウさんは隣であはは、と苦笑い。
「あれでも、優しくなった方なんですよ」
「まぁ、あの時はかなり大変だったんだけどな」
グリムさんはため息をつきながらそう言う。
この寮に入ろうと思う人は、いるのだろうか。
5人を見てみると、渉さんが1人でにやりと笑っていた。
「『あの人』に似た声でありながら、右手の人のような性格をしていて、背丈は姫君のよう……。なんだか面白いですねぇ」
まぁ右手の人はそこまで厳しくはありませんが、と言いながらこの出来事を楽しんでいるかのように笑うその人に、失礼かもしれないが軽く引いてしまった。
はぁ、と夏目くんはため息をつく。
「ボクは思い出したくないことを思い出しそうだから嫌だナ。まぁ、止めはしないけド」
「まだまだ寮はあるようですし、今決めるつもりはありませんよ」
嫌そうにする夏目くんを安心させるように渉さんは笑いかけた。
その光景は、本当の兄弟のように思わせた。