第1章 異変
「あぁ、スマホか。そういえばそんなものもあったね。あまり使わないので、すっかり忘れていたのだよ」
そう言って、各自いつもスマホを入れているのであろうポケットを探る。
しかし。
「おやぁ、私のポケットには無いようですね。どこかで落としてしまったのでしょうか?」
「僕もなのだよ。マドモアゼルは横にいたのだがね」
2人も棺桶から出ると、宗さんはマドモアゼルと呼ばれた名の無い少女の人形を大事そうに抱えながら、渉さんは長い髪を片手で抑えながら、棺桶の中に敷かれた布をまくって覗き込んだり、全てのポケットを確認し直したりしている。
一方、他の3人はすんなり見つかった様子である。
「もしかすると」
零さんが腕を組んで考える素振りをすると、口を開いた。
探していた2人は手を止め、私達は皆零さんに目を向ける。
「各々が望んだものが、1つだけ入っているのかもしれん」
「でも、ぼくがいちばんに『のぞむ』ものは、『おみず』です。ぼくは、さかなですから」
「それにも恐らく、決まりがあるのじゃろう。水や食料などの腐るようなものはこちらには運んでこれないとか、のう」
それなら、納得できる。
奏汰さん達も納得したような顔をしている。
「ともあれ、これで班を分けて行動することができそうだネ」
「そうとも限らんぞ。深海くんと嬢ちゃんも、念の為画面を確認しておくれ」
私は首を傾げながら、スマホの画面を点灯させる。
暗い部屋にその光は目にしみて、一瞬目が眩み反射的に瞼を伏せ、しばらくしてからもう一度目を開いて画面を確認する。
時計は昼間ではなく、元々設定していた私たちの世界の時間を示している。
あちらではそろそろ完全下校時刻になろうとしているようだ。
そして、少し視線をずらすと、絶望的な事実を目の当たりにした。
「電波が無いじゃろう。ここには、我輩達が普段契約している携帯会社は存在するはずがないのじゃ。もはや、これは連絡手段にはなるまいよ」
私達の議論が振り出しに戻ろうとした時、再び部屋の扉が今度は静かに開いた。
「何やら話し声がすると思ったら、あなたたちどなたですか? 見たところ、この学園の生徒では無いようですが」
顔も含めて全身鴉のように黒い男性がそこには立っていた。
その仮面らしきものを見て、私はギョッとしたが渉さんはどこか嬉しそうだ。
流石仮面コレクターである。
