第21章 月隠れの里
気が付けば、彼のその笑った顔を見たくて頑張っている自分がいた。そうして、生きる意味を見つけた。
あたしがイタチ様に拾われたのは、月の里の忍術が使えるから。任務がやり易くなるから。そう思う。
けれどこの人は時々、とても優しい目をする。
「シズク」
就寝時、イタチ様が静かに声を掛けてくる。
「今晩は冷える。ちゃんと布団を掛けろ」
淋しさから人肌恋しくなる時があって、あたしは隣のイタチ様の寝床へころんと転がった。すぐに驚いたような戸惑いの声が降ってくる。
「…まさかここで寝るつもりか?」
このほうが温かい。頑なにくっついていると、彼は苦笑しながらも許してくれた。
「……今回きりだぞ」
そう言いつつ、子供の頃は幾度かそんな事があった。
いつもよく面倒を見てくれた。あたしの我が儘も聞いてくれた。
悪の組織に身を置いてはいるが、それには色々と事情があって責務を果たしているだけで、元来争い事は好まない優しい人。だから私情であたしを拾ってくれたのだと分かってきた。
眼前に広がる荒れ果てた地に立ち、静かに手を合わせる。
仇討ちをしてもきっと報われなかったかもしれない。それでも何かしたかった…両親のために。今は止めようとしてくれたイタチに感謝している。
人には繋がりがある。成功しても失敗しても、それぞれの繋がりを持つ誰かが悲しむ結果になる。結局悲しみの連鎖は消えない。
『月夜に紛れては要人を殺す、暗殺を生業とする厄介な一族がいると言われてな』
『お前…なんで自分の一族が狙われたのか考えた事あんのか、うん?』
ふと脳裏にサソリとデイダラの言葉が甦ってくる。
因果応報…そうか。人を憎んだら憎まれる。人を殺したら殺される。
でも…一族の仕事は宵の国からの命令で、父や母、里の忍達は任務として遂行していただけなのに。
忍者なんて所詮殺しの為の道具で、利用されて捨てられるのだろうか…
悲しく、惨めな気持ちを背負いながらシズクは月の里をあとにした。
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