第21章 月隠れの里
「…サソリが落とした里というのはここか…」
くすぶった煙の向こうに見知らぬ忍の姿があった。人の寄り付かないこの荒れ地への来訪者は珍しく、シズクはむくりと横になっていた体を起こした。
「……生き残りか」
そしてイタチと出会った。黒地に赤い雲模様の衣…その時彼は既に暁に所属していた。
暗殺等様々な依頼や資金集めで、小さな里や国を荒らしていたサソリ。事後処理の為だったのかは解らないが、イタチはもはや焦土と化した月隠れの里を訪れていた。
「…一人か?家族は?」
感情の見えない顔で静かに見下ろされ、無機質な声で問い掛けられる。
「……誰もいない。みんな殺された」
「お前は何故生きている?」
「……お父さんと、お母さんが…っ…助けてくれた……!」
父と母を、里の仲間を思い出してまた感情がぶり返してくる。
「あたしは里の外にいて……戻ってきたら…っ、なんで…こんな…!」
泣きじゃくるシズクをイタチはしばらく黙って見下ろしていた。そのうちスッと片膝を地面につき目線を近付けると、シズクの頭に手を置きなだめるようにそっと撫でてきた。その手は大きくて温かかった。
「ここに居てもいずれ死ぬだけだ」
彼は表情を変えずに淡々と残酷な現実を告げてくる。最後の食料を数時間前に口にした。ここを出て探しにいく気力もない。死ぬ…のかもしれない。どうしていいか分からない。
するとイタチは頭を撫でるのを止め、代わりにシズクの前に手を差し出してきた。
「一緒に来い」
そうして彼に手を引かれ立ち上がった。行く先も知らないまま、この手に全てをゆだねて…
連れられて来た場所は、飾り気のない薄暗い部屋。無口で無機質で無表情なこの人と同じ、何も汲み取れない空間。あたしの新たな生活が始まった。
何やら胡散臭い組織に属している彼のもと、スパイのような情報収集や貴重品の奪取の仕事を与えられた。月夜野一族の秘伝忍術を使い役割を全うすると、彼は少し満足そうに笑った。