第21章 月隠れの里
暁内で何やら招集の動きがあり、イタチと鬼鮫は長時間の任務に就くことがあった。二人のいない持て余した時間を利用して、シズクは自里へ帰ってみようと思い立った。
「…月引の術」
恐る恐る印を結び、全てが消え去った跡地へ向かう。
思い出す…あの悪夢の始まりの時。
「シズク!」
遊び疲れて眠たかったその日の晩は、夕食後既にうとうとし始めていた。何だか外がやけに騒々しかったのを覚えている。そんな中父の呼び掛ける声と、母との会話が少し聞こえた。
「シズクを頼めるか?オレが時間を稼ぐ」
「ええ、すぐ戻ります。あなた、無茶はしないで」
「んー…?」
寝ぼけた頭で返事をして目をこすると、父が家の外へ向かうのが見えた。
「…眠いのね。寝てていいわよ、少し移動するからね」
母に抱き起こされつつも腕の中で安心しながら眠りにつき、翌朝目覚めたら知らない場所にいた。
ううん、知らなくはない。以前に一度だけ来たことがある。家族三人で、父の休暇中に遊びに来た避暑地だった。
…どうして、こんな所に…?
父と母を探したけれどいなくて、でも帰ろうにも道が分からない。飛ぶにしても遠すぎて一度には移動出来ず、歩いて距離を詰めつつ飛べる場所があるか試しながら帰った。当時はまだ未熟で、長距離を移動することが出来なかったのだ。
それもみな父母の計算のうちだったのだろう。時間をかけて帰ってきたあたしは、そこが地獄に変わったことを知った。記憶を頼りにしてもなかなか辿り着かないはずだ。あたしの知っている故郷はそこにはなかった。何もない…焼け野原。あたしがもたもたしているうちにみんな殺されてしまった。
そうして気付いた。父は、母は…自分を逃がしてくれたのだ。
下手に動くとお腹がすくためうずくまって過ごす。動く時はどこに何があるかしっかりと思い出し、なるべく効率的に進んだ。
残っている食べ物はほとんどなく、昨日今日あたりはほぼ収穫がなかった。
お腹がすいて頭が働かない。もう限界…けれど、何もないと解っていても、ここを離れることが出来なかった。