第8章 過去と痛みと現在と
ひなこside
何度も何度も布団の中で
寝返りをうち
必死に瞼を閉じてみても
大倉さんの笑顔が浮かんできて
眠れない夜…
無駄な抵抗をやめて布団から抜け出し
スマホを片手にベランダに
出てみると
それは綺麗な満月が
空に浮かんでて
大倉さんにも見せてあげたいなぁ…
なんて考えてしまう自分が
本当に哀れで仕方がない…笑
じわじわと熱くなる目頭に
また涙がこぼれ落ちそうで
慌てて綺麗すぎる満月から目を逸らし
部屋の中に入ろうとした時
スマホを持つ手がぶるりと振動し
着信音が流れ出す…
どくんどくんと早くなる心臓の音に
落ちつけ…落ちつけ…
そう何度もいい聞かせて
スマホの画面に視線を移すと
そこには"非通知"の文字が光っていて
落胆しながらも
ゆっくりとスマホを耳に当て
「もしもし…?」
そう声をかけても返事は無くて
もう一度"あの…?"
と遠慮気味に話しかけると
そっと静かに息を吐き出す微かな音が
聞こえてくる…
その瞬間何故だか分からないけれど
この電話はきっと大倉さんからだ…!
なんて何の根拠もないのに
自分の中で確信して
「今日私ね…
たくさん会社で失敗しちゃいました…
誰かさんが私を振り回したですよ?
クビになったら
どうしてくれるんだか…笑
あと今日の夜ご飯はね…」
なんて…
今日一日にあった出来事を
一人ごとのように話続けていると
いつの間にか
すぅすぅと小さな寝息が
電話越しに聞こえてくる…
そんな寝息を聞いてたら
つられてこっちまで眠たくなってきて
ソファーにもたれかかりながら
スマホを握りしめて
そっと静かに目を閉じてみた……