第8章 過去と痛みと現在と
胃の中身を全て吐き出し
トイレから這うように抜け出すと
「大丈夫なの…?」
そう言って心配そうに
俺の顔を覗き込むかなさんがいて
「全然大丈夫やで…笑?
ちょっと昼飯食べ過ぎちゃって
消化不良やっただけやから」
そう笑顔で言うと
かなさんは安心したように
「気をつけなきゃダメだよ笑?」
そう言って笑い背伸びをして
俺の頭をわしゃわしゃと撫でる…
かなさんが俺を見て笑ってて
かなさんの手が俺に触れてる
幸せなはずのこの瞬間
不意に頭に浮かんだのは
あの日苦しくてうずくまる俺を
抱きしめてくれた
ひなこの腕と…
震える俺に
何度も優しく言ってくれた
“大丈夫…“
の言葉で…
なぜだか胸が苦しくて
俺の頭に触れるかなさんの手から
逃げるように
「ごめんな…?
今日は疲れたから…もう休むわ…」
そう言って
寝室に向かう俺を
かなさんはぼんやりと見つめて
扉が閉まる瞬間
「おやすみ」
少し悲しそうな
小さなかなさんの声が聞こえた…