第14章 天下人の右腕は奥方の兄
天主の階段を下りる。纏う気が重苦しい。さっきまでのが嘘のようだ。
『秀吉様、先程の改善点などをまとめておきます。それと、年貢や収穫の実態も比較してきます。』
『あ、あぁ。助かる。頼むな、三成。』
『はい、では。』
三成は、そのまま書庫へ向かっていく。
…ふぅ。
俺は、どうするか。そんなことを考えて、ちらりと縁側から見える空を見上げた。陽が傾き始めていた。
『秀吉様!』
声のする方を見ると、慌てた咲の姿があった。
あぁ、嫌な予感がする。
『どうした?』
『先程、あさひ様が天主から降りてこられたのですが、大層ご立腹で。今宵は自室で過ごすと話されているのです。』
『…そうか。』
『何があったのですか?』
何があったんだろうな…
『俺もわからないんだ。まぁ、話を聞いてみる。』
『ありがとうございます。私では御舘様との間の事までは進言できません故…』
『あぁ。そうだよな。大丈夫だ。俺が何とかする。咲、茶でも用意してもらえるか?』
『承知しました。』
安心した表情に変わった咲を厨に送り出す。
『…何とかする、か。』
咲、俺だって御舘様とあさひの間の事は立ち入りたくないことだってあるんだ。そう、まさに今なんだが。
出来ることなら、知らない不利をして御殿に帰りたい。
でも、帰ったら帰ったで、気にしてしまうしな。
…はぁ。
夫婦喧嘩まで、世話を焼くのか?
なぁ、光秀。
お前どこほっつき歩いてるんだよ。
※
『…あさひ、いるか?』
『…いるよ。』
『入るぞ。』
『うん、どうぞ。』
俺は、咲の用意した茶を持ってあさひの自室を訪ねた。
案外、けろっとしているあさひに拍子抜けする。
泣いてないのか、と。
『なんだ、着物仕立ててたのか?』
『仕立ててたって言うか、リメイクしてるの。』
『り、め?』
『あ、うーんと。作り直し…かな?』
『確かにな。その羽織、よく気に入ってつかってたやつだろ?』
『…よくわかるね。』
あさひの膝の上には、春先に使っていた花柄の羽織があった。襟元に、見慣れない形の布がついていた。
『フリル、って言ってね。こうやって薄桃色の生地を工夫して縫って飾りをつけたの。そうすれば、また違った見映えで楽しめるから。』