第14章 天下人の右腕は奥方の兄
『そうか。物を大切にするお前らしいな。…新しい羽織をねだってもいいんだぞ?』
「…同じこと言われた。」
『えっ。』
「貴様欲が無さすぎる、って。でもね、まだ着れるし。この柄ならこうやって仕立て直したら可愛いかな、とか、組紐で花飾りをつけて房を垂らせばお洒落かな、とか。刺繍を変えてみようかな、とか。考えると楽しいから。
城下の人たちはそうやって仕立て直しして使ってるでしょう?
私だって無駄遣いしないで、仕立て直せて着回しが出来るならその方がきっといいじゃない。」
まぁな。御舘様の奥方の生活ぶりだって、世間は気にしてみているだろうから倹約家であることは…良いことだ。
「そっ、そしたらね。」
『ん、あぁ。』
「お洒落だの可愛いだの、誰に見せようとしているんだ。って信長様が。」
ん?
「誰にってどういう事か聞いたら…。貴様はそうやって500年後の知識で新しく着飾り、周りを惹き付け惑わす。って言うの。」
…なるほど、な。
「意味わかんないでしょ?気に入ってた羽織を仕立て直して可愛くしてお洒落にしたいだけなのに。なんでそんなこと言うの、って思って。私、周りを惑わすようなことしてるつもりない。
確かに、確かにね。女中さんや家臣の方に、刺繍や飾りを誉めてもらったりはするよ。でもね、それだけだし…。」
はぁ。【それだけ】は【それだけ】じゃねぇんだ。
「物を大切にして使えば、違う方にお金だって行くでしょ。私だって少しは役に立ちたいし。それに、仕立て直しを考えると楽しいし。…一着一着、信長様が選んでくれたものだから、沢山思い出があるし。大切に、したいから…。なのに、信長様。欲がないとかまどわすとか、意味わかんない。」
『だから、わからず屋って言ったのか。』
「うん。」
『俺から言わせたら、あさひもわからず屋だな。』
「えぇっ?何で?」
『惚れた女を着飾るのが嬉しかったりする男心をわかってねぇからだ。』
御舘様の男心、なんて言っちゃいけない。…が、俺は目の前の無自覚な奥方に少し教えてやらなければ、と話し始めた。