第18章 梅薫る、春恋の風
あかぎれのあるかさ付く手に、ゆっくりと軟膏を塗る。
『軟膏は、手のひらの温度で温めて柔らかくしてから塗るといい。』
『そう、なんですか。』
『揉みほぐすように塗ると血の巡りも良くなるから。』
『…はい。』
『うん、終わり。』
『ありがとうございます。』
『また、来る。奏信様を頼む。』
『…はい。』
湖都と俺の視線が合う。
無意識に俺の手は湖都の梅の様な紅らんだ頬を撫でて。
気が付いたら、口付けていた。
ほんの一瞬だったけれど、湖都の眼が見開いた。
『…ごめん。』
あぁ、そうだった。この子は初めてなんだ。きっと、これも。
俺は頭をもう一度ゆっくり撫でた。
『髪飾り付けたら、俺にも見せて。楽しみにしてる。』
そういうと、ゆっくり湖都は頷くから、なんだかわからないけど、またそれが可愛く見えて、もう一度、口づけた。
静かな部屋越しにパタパタと足音が聞こえた。
それはあさひの物で。
でも、まだ軍議には早い筈だから信長様と話終えたんだろうと考える。
『じゃあ、俺は行く。また。』
『…はい。』
最後に頬を撫でて、ゆっくりと立ち上がる。
襖を開けると爽やかな風が部屋に入ってきた。
「あ、家康。」
『一旦部屋に戻ってから軍議に行く。あんたは?』
「そう。私は考えた歌を光秀さんに見てもらうのに、書いた紙を取りに来たの。」
『そう。やり直しにならなきゃいいね。』
「もぉー、頑張ってるんだからそんなこと言わないで。」
『はいはい。じゃぁ、また。』
「うん。ありがとう!」
あさひは湖都がいる奏信様の部屋へ向かう。
きっと部屋に入ったら、湖都の様子に気付くだろう。
でも、きっと、湖都は何も言わずに、梅の様に頬を染めるだけなんだ。
何故か鬱陶しかった梅大祭が気になってきて。
軍議が終わったら、御殿に戻る理由をつけて市に行ってみようかと思う。
梅の花枝か、そうじゃなくても梅にちなんだ何かを探すために。
一旦… 完