第13章 嫉妬渦巻く仮装の宴 後編
【広間】
『信長様!こちらに判を!』
『信長様、こちらにも!』
『あ、あぁ。いや、あのな。俺は…』
『信長様、越後への返書と共につける品は梅干しだけでしょうか?』
『あ、あぁ。…あ、ほら城下外れの茶屋の甘味に新作があったな。それもつけろ。信玄が喜ぶだろう。』
『はっ。』
『信長様、西に飛ばしていた斥候からの報告が。』
『あ、いや、俺は…、って光秀!』
『様になってるじゃないか、信長様。』
『やめろ!畏れ多い!…なぁ、信長様は知らないか?』
『あぁ。…政宗なら、厩にいたな。』
『はぁ?ま、まさか、遠乗り? ちょ、待て、お前ら!俺だ!秀吉だ!』
『は、秀吉様!』
『今、信長様を連れてくるから!』
『それでは、政務が進みませぬ!秀吉様で出来る政務をしてくだされ!』
『え?』
『ほ、ほらっ。判を押すとか!』
『あ、あぁ…』
『では、俺が遠乗りをご一緒しよう。まぁ、あの方は今政宗だからな。自由にされているだろうが。』
『それじゃ、困るんだ!っておい!光秀ぇ!』
宴まで、後二刻。
城内は、羽織の色で騙される家臣が本物を探し、成りすまして騙そうとする偽物に翻弄されていた。
※
【あさひ自室】
『本当にやるのですか?』
「うん。信長様に謝ったしね!咲だってそれっぽい羽織や着物、帯とか簪とか、張り切って用意してくれたじゃん!」
『そ、それは、そうですが。』
『さ、やろ!』
あさひは、手早く羽織を脱ぎ咲が用意した小袖に着替え始めた。
並んだ小袖や羽織、帯は普段身に付けることの無い雅で妖艶なものばかり。
『どこから探してきたの?』
『…遊廓の知り合いからです。』
「え、知り合いいるんだ!」
『…ご内密に。』
「あ、うん。咲、起こってる?」
『いえ、ただ。間違いなくお似合いですからね。殿方の反応が恐ろしくて。』
「大丈夫だって!…仕置きは受けるんだし。」
『はぁ。…はい、ではやるなら完璧に、です!
弥七、吉之助!』
「え、二人が何かあるの?」
『太夫は吉原遊廓最高位、着物もかなりの重さがあります。倒れないように弥七が肩貸しをします。吉之助は、傘持ち。』
『えっ。』
『俺たちもか?』
『お前達の着物も借りてきたから!』
「咲、やる気だね。」