第2章 戦場の向日葵 ー前編ー
(私に何ができるんだろう。)
安土の夕焼けは、戦の出陣が近付いていても、いつもとなにも変わらない。
(祈ることしか、私には出来ない。)
無力感を感じながら、あさひは夕焼けを見つめていた。
『浮かない顔だな。』
「光秀さん…」
『所詮、戦で血が流れないように、などと甘い考えをめぐらせているのだろう。』
「甘い考えなのは、もう私も解ってるんです。」
『ほう。』
「戦は、乱世には仕方ない事だと言うことは、頭では解ってるんです。
ただ…私は戦のない世で生まれ育ちました。
明日が最期になるかもしれない別れなんて、する必要がなかったんです。」
『羨ましい限りだ。』
「光秀さん。」
あさひは、夕日を背にして振り返る。
「私は、何ができますか? 祈るだけしか、出来ないんですか?」
…ふっ。と光秀は呆れるように言った。
『お前の為の先の宴で、皆はお前が安土の何だと言っていた?』
「えっ?」
『思い出せ。俺が、秀吉が、政宗が、家康が。三成でさえお前が安土の何だと言ったんだ?お前の何が好きだと言ったんだ?』
あさひ、お前は安土の太陽だ。
あさひ様の向日葵の様な笑顔が好きです。
みんな、お前の笑顔が好きだ。
あんたは、そうやって笑ってて。
あさひ、お前の光は俺にさえ優しい
「笑顔が好きだって。安土の太陽だって。」
『太陽はが曇れば安土は闇だな。』
あさひの瞳から涙が溢れた。
『お前の光は皆を照らす。お前が来てから、皆がその陽の光に癒されたのだ。不安を纏えば、それだって伝染するのだぞ。』
「…私は。」
『あとは、小娘の頭で考えよ。じゃあな。』
光秀は、似合わない優しい微笑みを一瞬見せた後、あさひを置いて去っていった。
「太陽、か。」
あさひは夕闇に輝く星をただ見上げ、ぽつりと呟いた。