第2章 戦場の向日葵 ー前編ー
(笑って見送って、笑ってお帰りって言う。
そんな事でいいのかな?
信長様がいない間も笑ってろってこと?)
光秀との話を思い出すが、命を懸けて赴く戦に笑って見送る事正解なのか、あさひはまだわからずにいた。
(お守り…、作ろっかな。)
安土城が行灯の明かりに灯される。
あさひは天守に戻る前に、自室に行き裁縫道具箱を開けた。
鮮やかな端切れがたくさん出てくる。
(気持ちを込めて、お守り。
みんなが怪我無く帰ってこれるように。
願掛けみたいな感じかな。願掛け… )
端切れを触りながら考える。
そして、出陣で渡す品を思い付いた。
※※※※※
翌日も城は慌ただしかった。
出陣前日ともなれば、甲冑や武具も城から出され始める。信長も政務に慌ただしく、やはりあさひだけが取り残されているようだった。
(昨日の夜、信長様は帰ってきたのかな?
結局待てずに寝ちゃったし。)
戦の準備などで、信長が天守に戻ったのはあさひが寝付いてからだった。
(会って、何て言えばいいのかな?)
そう思いながら針子部屋に行き、戦の仕立てを手伝った。
針子仕事が落ち着く頃には昼になり、広間で武将達と膳を囲む。
いつものように、秀吉が三成の食べ方を気にしながら、政宗が家康と光秀の食べ方を気にしながら…
何も変わらない。
明日出陣するなんて思えないようだった。
(この日常が壊れたら、嫌だな。)
あさひは目を潤ませる。
涙を流さぬように気をつけて、ゆっくりと息をはいた。
『家康、政宗、戦準備は出来たか?』
『はっ。いつ出陣しても問題ありません。』
『俺もです。』
『そうか、二人にはこの後は暇を与える。明日までゆっくり過ごせ。』
『はっ。』
『あさひ。』
「は、はい。」
『俺は秀吉と戦で不在中の守備と政務を話し合う。先に天守でまっていろ。今宵は必ず戻る。』
「わかりました。お待ちしています。」
(うん、うまく笑えた。)
あさひはそう思った。
しかし、その作り笑いを、その場の誰もが気づいていた。