第12章 嫉妬渦巻く仮装の宴 前編
祭り当日ー。
人払いをした軍議は簡単に終わり、信長がパチンと扇子を閉じた。
『さて、皆の者… 化けるとするか。』
にやりと笑う信長に続き、政宗がポンと膝を叩いた。
各々がゆっくりと立ち上がる。
「家臣の方に配るお菓子ですが…、政宗と準備したものを重箱に詰め皆さんの政務をするお部屋に運びました。」
『配りやすいように和紙に包んでおいたぞ。』
『はぁ、本当にやるんですか?』
『往生際が悪いぞ、家康。』
「さ、着替えよっ!」
あさひの声を合図に信長と安土五武将は、するすると纏っていた着物を脱ぎ、決まっていた装束に着替え始めた。
「信長様、青似合いますね。」
『見惚れたか?』
「…はい。あっ、眼帯はしますか?」
『当たり前だろう? 政宗なのだから。』
あさひが立て膝となり信長に眼帯をつける。
互いの鼻が当たるほどの距離となった二人は、周りを気にすることなく口付けを交わす。
『なんか、俺が口付けしてるようで、変な気分だな。』
『政宗、青じゃなく赤も似合うじゃないか。』
『そうかぁ?…って、光秀!着物の丈短すぎだな!』
『仕方ないだろう。家康の着物なんだから。』
家康の着物を纏う光秀の足元は脛が見え、明らかに寸足らずだった。
『すいませんね。小さくて。』
『いや、これはこれで動きやすい。ところで、家康。お前、紫も似合うじゃないか?』
『まさか、家康様が私に仮装していただけるとは…。光栄です。』
『…俺、腹斬っていいですか?』
「ちょ、何て事言うの?家康。お祭りなんだからさ。」
『そうだぞ、家康。』
『秀吉さんは、俺と違って幸せでしょうよ。』
『おっ、俺は…畏れ多くてな。信長様の真白な羽織に袖が通せないんだ。』
『秀吉様、白と黒もお似合いですよ?』
『あぁ、三成。お前、なんかしっくりくるな。』
『そうでしょうか? この腰辺りの火縄銃が些か邪魔でして。』
『三成、はっきり言うな。』
「なんか…みんな不思議。ふふふっ、あはは。」
着替えが終わった六人を見てあさひは、堪えきれずに笑い出す。それに釣られ、咲も笑い始めた。
『よし、では各々、今日も励め!』
『『ははっ!』』
『家康、お前これから俺と治水工事の視察だろ?』
『えぇ、でも行きたくありません。三成なので書庫に戻ります。』