第11章 同じ釜の飯を
「大根、大きいですね。…皮剥きました?」
『いや…。』
「ふふっ。大根は皮を剥くんです。こうやって…」
かなり大振りに切られた大根の皮を、あさひは剥き始めた。
「もう少し小さくしましょう。半分位に切ってください。私は茸を準備します。」
『わかった。』
「磨ぎ汁ありますか?」
『あ、はい。』
『磨ぎ汁で何をするんだ?』
「大根の灰汁抜きします。」
『あさひ様、よくご存じで。』
「えへへ。」
料理番の煮立てた磨ぎ汁に、信長は大根を入れる。
『次は?』
「青菜を切りましょう。一口大に。」
『一口大?』
さく
『これくらいか?』
「それの半分位で。…信長様の一口大って大きすぎますよ!」
『小さすぎるよりよかろう。』
厨からは笑い声が聞こえ出す。
立ち入りを禁じられた咲が、優しく見守っていた。
『次は?』
「青菜と豆腐を炒めます。」
ジュアッ
油の入った鍋に青菜をいれ炒め始める。
信長の額に汗が滲む。
『豆腐は?』
「手で崩していれます。はいっ。味付けは塩一つまみと…」
バサッ
「え?」『あぁっ。』
『なんだ?』
「塩、一つまみですよ?」
『これくらいだろ?』
「…一握り、です。それじゃあ。」
『…。』
「ふっ。食べてみてください。」
『あぁ。…塩辛いな。』
「卵…ないですよね?」
『ここにあるぞ。』
「え、? わぁっ!」
あさひが振り返ると光秀が籠に入れた卵を見せた。
『光秀、賭博場の見回りは?』
『すでに。…珍しい事があるのですね。信長様がたすき掛けで昼の支度とは。』
「みんなを驚かせようと…」
『秀吉が泣いて喜ぶぞ? 足止めでもしておいてやろう。』
「は、はい。」
『そうそう。茶屋から菓子が届いていました。』
「あ、良かった!じゃあ、私が汁物と炒め物を仕上げるので、お茶をたてる支度します?」
『いや、茶の支度は終わっている。
…卵を割るのか?』
「あ、私がやります!」
『くっ!』
『光秀、いつまでいる?足止めだろう?』
『は、失礼を。』
あさひは、光秀に頭を下げると、卵を割りときはじめた。
そして、信長の炒めた青菜と豆腐に、とき入れた。