第11章 同じ釜の飯を
ー宴、当日。軍議後。
『皆、今日は別な命がある。』
広間を出ようと立ち上がった其々が、信長の言葉に姿勢を正し座り直した。
『…命とは?』
真面目な顔で秀吉は信長に問う。
『昨日、新たに露店をする商達が増えているのがわかった。』
『ふっ。』
家康は、小さく吹き出した。
『楽市楽座は商いの自由を奪うものではないが規律は大事である。』
『はい。』
『その為、秀吉、三成は城下の新しい露店を調査。光秀は、賭博場などの見回りをせよ。』
『…今から、ですか?』
『そうだ。よいな。』
『『はっ。』』
『ふっ、かしこまりました。』
『政宗、家康。』
『は。』
『貴様らは冬に向けた備蓄と水路の確認を頼む。』
『…は。』
政宗と家康は顔を見合わせた。
『…昼までにもどれ。以上だ。』
『『御意!』』
羽織を翻しながら広間を出た信長を見送った四人は、急に出た命に首をかしげながらも、動き出した。
『何が始まるのやら?』
光秀だけが、くっと笑っていた。
※
天守の板張りから五人が出掛けたのを見ていたあさひは信長に声をかけた。
「行きましたよ。始めましょう!」
『あぁ。』
厨に向かう二人。
米の炊き上がる匂いがする。
「まずは、汁物と炒め物を作ります。
汁物は、大根と青菜と茸とお豆腐。炒め物は、青菜と豆腐。信長様はまず、青菜を洗ってください。」
『の、信長様が?』
釜戸を託されていた、料理番が驚いて立ち上がる。
「はい。」
ざぶざぶ。
信長が青菜を掴むと乱暴に桶にいれた。
『あぁ。』
咄嗟に料理番が声をあげる。
『なんだ?』
「もぉ。まずはたすき掛けして…。」
あさひは手際よく、信長にたすき掛けをする。
「青菜は泥がついているので根本はしっかり、葉は破れやすいので優しくあらうんですよ。」
あさひは、話ながら桶の青菜を洗い出した。
「一緒に料理、楽しみでした。はい。」
『あぁ。貴様は何をする?』
「大根切ります。」
『貸せ、そちらをやろう。』
「え?」
『刀も包丁も一緒だ。』
「…そうかなぁ?」
はい、と包丁を渡すあさひ。
手慣れた手つきでさくさくと大根を切り始めた。
青菜を洗い終わる頃、信長の手元には、かなり大きな一口大の大根が並ぶ。