第11章 同じ釜の飯を
『まぁ、一人なら、の話だな。』
『は? 光秀、どういう…』
『ほら。』
光秀が、城下の先を指差した。
『ん?!』 『えぇ!』 『ほらな、やっぱり。』
指差した先には、町人に混じって入るようで、かなり目立つ長身の男とそれに寄り添う女の姿。
軍議で見た着物の柄が目に留まる。
『な、なにを!俺は聞いてないぞ?』
『お忍び…ですかね。』
『なんか、食ってねぇか?』
『んぁ! 金平糖だっ!御館様ぁ!』
『秀吉さん、目がいいんですね。食べてるくらいしか、わからないけど。』
『信長様への忠信がなせる技だな。』
『…あんたには無いんですか?その忠信。』
『俺は、暖かく面白おかしく見守る派だ。』
『はぁ。』
『あ、見ろよ。気付いて逃げたぞ?』
『…これ、城で説教する感じですかね?』
『面倒だな。』
『お前達、御殿に来るか? うまい酒とつまみがある。』
『光秀さんの御殿にですか?』
『茶は?』
『当たり前だ。あるぞ。』
『じゃあ、秀吉さんに任せて…』
信長を追いかける秀吉。
それをまこうと逃げる信長とあさひ。
三人の姿に背を向けて、家康、政宗、光秀は違う方へ歩き、だした。
秀吉は、露店商に何を売ったか確認すると、また慌ただしく追いかける。
その早さに危機を感じた信長は、あさひを横抱きにして走り出す。
けらけらと笑うあさひ。
城に先に着いた信長は、急いで金平糖の小瓶を懐と、
あさひの着物の袂に隠す。
『信長様、何を買われたのです?城下にあさひと供を連れずに!』
『俺は強い。』
『…わかっておりますが! さぁ、渡してください。』
『何をだ?』
『…何をって買った物をです。城下であの様に食べてしまうなど!』
『…ほら。』
信長は、一瓶をほいっと秀吉に渡す。
『まだ、買われたのでは?』
『知らぬな。…ところで、貴様は一人で見回りか?』
『えっ、えぇっ?!』
秀吉は、後ろに誰も居ないことに漸く気付き驚いている。
『ふっ。追いかけてくるのは貴様だけだったぞ?』
『あ、あいつら!』
そんな二人の会話を背に、袂に入る小瓶をぶつけないように歩くあさひ。
そのぎこちなさに気付いた秀吉が、近づこうとする。
『どうした?』
『あさひの歩き方が不自然です。』