第11章 同じ釜の飯を
『また仕入れる日はあるか?』
『は、はい。10日後あたりには。』
『では、また買い付けに来る。取りおいておけ。
…早くしろ。あるだけ全部買う。』
金平糖の小瓶は五つ。慌てるように店主は、信長が差し出した風呂敷を取り出し包み始めた。
「風呂敷、持ってきたんですね?」
『念のためな。』
「ふふっ。」
『こちらです。』
『また、10日後に来る。』
『は、はい!』
『行くぞ。あさひ。』
「はい。」
二人は、露店に背を向け歩き出す。
少しだけ歩くと、また信長は立ち止まった。
「どうしたんですか?」
『…待てぬ。』
信長は持っていた風呂敷を、あさひに持たせるとその中から一瓶取り出した。
ぱかりと開いた瓶から転げ出てきた金平糖を、二粒あさひの口にいれた後、五つほどを自身の口に運んだ。
カリカリ
ほろ甘い味が口に広がり、口元が綻ぶ。
「美味しいけど、なんか悪いことしてる気分。」
『ああ、煩いやつに見付かればな。』
「え?」
信長は、ころころと金平糖を手に出すと口に放り込み、瓶を懐に入れた。
『逃げるぞ。』
「え?」
『煩い見回りが来た。』
信長はあさひの持つ風呂敷を取り上げると、手を引き走り出した。
「見回り?…まさか秀吉さん?」
あさひが振り返ると、遠くから走りよってくる赤と緑色の姿が見えた。
※
(少し時間を戻して、軍議の後)
『なんで、俺まで? 傷薬とか作りたかったんですけど。』
『まぁ、いいじゃねぇか。気晴らしだ。』
『おい、政宗。城下の見回りは気晴らしじゃねぇ。
治安を保つために…』
『はいはい。』
『はい、は一回だ。…っ、光秀!お前何してる?』
『酒を飲んでいる。』
『は? お前、今は公務中で、見回り中で…』
『はぁ、帰っていいですか?
嫌でも三成のやつと書庫整理でもすりゃ良かった。
…政宗さん!寄り道しちゃだめですって。』
『ん? あぁ。可愛い娘の声が聞こえてな。』
『…まったく。』
四人は、ぞろぞろと茶屋までやって来た。
『特に変わりはないな。』
『…えぇ。戻りますか。』
『…なぁ。』
『なんだ、政宗。』
『あさひの匂いしねぇか?』
『は?』
『政宗。お前、犬か? あさひが一人で城下にいるわけないだろう?』