第2章 戦場の向日葵 ー前編ー
「戦…ですか?」
いつもの軍議の行われる広間。
あさひの不安の色を含んだ声が響いた。
『小競り合いだ。たいしたものではない。五日もあれば終わるだろう。』
最近の安土は、上杉武田勢との友好協定により目立った戦がなかった。逆に言えば、今は誰もが黙り混んで様子を見ている、とも言える状況だった。
そんな中、友好協定を歓迎する大名と納得できない大名との小競り合いが発生。
直に信長様が出陣し収めることになった。
『友好協定が不満な輩は多い。わからぬなら潰さねばな。』
「あまり最近は戦がなかったから…」
あさひの表情が曇る。
『戦とはいっても、信長様が赴かれることで権力を示し無用な血を流さないためのものだ。』
「秀吉さん。」
『相手がすぐに和睦すれば、の話だ。』
(和睦しなかったら?)
「大丈夫だ、あさひ。信長様は、一緒にいく家康と政宗がお守りする。」
「うん…」
『なんだよ。あさひ、俺達じゃ役不足なのか?』
『ほんと、失礼なやつ。』
「ちがっ、違うよ。謙信様も信玄様も戦はなさらないって話してたから、戦はもう無いって思ってて…
誰も血を流さない世の中の気がして。だから…
まだ乱世なんだって、気づかされたって言うか…」
誰もが甘い考えだと思う。
しかし、あさひの誰にでも平等に与える優しさを知っている。
どんな事があっても、その平和呆けのような考え方のままでいるあさひを、血生臭い世で生きる武将達は癒しを求めるように眺めていた。
『そうやって、あんたはのんびりしてればいいんだ。』
『俺が小競り合いなんてすぐ終わらして、帰ってくるから。』
「家康、政宗…」
『あさひ様、私達と待っていましょう。大丈夫ですよ。』
「うん。」
『貴様は、俺が帰城する時に真っ先に迎えに来い。それでいい。』
「はい。」
うまく笑えないあさひの背中を秀吉がそっと撫でた。
『出立は二日後、皆各々準備せよ。』
『はっ』
軍議は、そのまま解散となり、城内は戦の準備に慌ただしくなる。
あさひだけが、その流れに取り残されているようだった。