第1章 二人の距離
「信長様、ありがとうございます。ごめんなさい。」
『俺は、鉄砲玉の様な女を嫁にするのか?』
「…ごめんなさい。」
五人があさひの後ろから、優しく意地悪に見守る。
『来い、あさひ。』
「え?」
『着物を選ぶ。』
「え?汚れてないです。」
『次の散歩のための着物だ!』
「えぇ?」
『膝が痛くて歩けぬなら、抱き寄せるだけ。』
「あ、歩けます!」
急いで立ち上がろうとした時に、懐からころりと小瓶が落ちた。
「あ、。」
『これは、金平糖か。』
『金平糖…』
『秀吉さん、落ち着いて。』
『秀吉、今は駄目だ。』
家康と政宗が秀吉の羽織の裾をおさえる。
「仲直りしたくて、…買いました。」
『俺のか?』
ふっと、笑うと瓶の蓋を開け一粒口に入れる。
そしてすぐにあさひに口づけた。
甘い味がする。
信長が悪戯に笑う。
あさひもまた、微笑み返す。
金平糖が、離れた距離を縮めるように、また一粒口に入れて口付けた。
「着物、選んでくれますか?」
『容易い。』
手を引き、二人はあさひの自室へ向かう。
『お、御舘様!その金平糖は!』
『やらぬ、秀吉。』
『お、お待ちください!』
高らかに笑うと信長は、あさひを連れて走り出す。
『秀吉、大変だな。』
『仲直り出来たし、帰っていいですか?』
『明日も面白い事があればいいな。』
『お二人とも仲睦まじい。』
四人は信長たちとは反対方向に向かって歩き出す。
すると、政宗が思い出したように声をあげた。
『あ、俺。あさひの部屋行くわ!』
『は?なんでですか?』
『信長様が選ぶあさひの着物、見てみてぇ。』
『確かにな。』
『お、俺も行きます。』
『じゃあ、私も。』
四人は振り返り、あさひの自室に向かって足早に歩き出した。
完