第10章 天女の歌声 後編
『それなら、よい。』
思ったより怒らなかった信長に、あさひは、安心しきっていた。
しかし、その夜、嘘をついた仕置きが待ち構えられていたのだった。
…そして五日後。
あさひは信長の言う【ついては行かない】という言葉の意味を知ることとなる。
※
ー五日後。
城門には、秀吉、家康に見送られるあさひの姿があった。
「じゃあ、行ってきます。」
『あぁ、気を付けるんだぞ。佐助に宜しくな。俺達も…』
「え、俺達も?」
『あ、いや。えっと…』
『溜まった政務を終わらせる、ですよね?』
『あぁ、そうだ。頑張って終わらせる。』
「うん。遅くならないようにするから。」
『わかった。佐助、待ってるんでしょ?
早く行きなよ。』
家康に促され、あさひは五日前と同じ面子で待ち合わせの茶屋へ向かった。
『秀吉さん、嘘つくの下手ですよね?』
『家康、すまん。』
『はぁ、さぁ、終わらせて【追い掛け】ますよ!
【ついては行かない】けど【追い掛ける】なんて言葉のあやなのに…
うちの城主は、頓知比べかなにかですか?』
『見送りをしないで、書簡書きしてるんだ。それだけ
あさひの歌声を聞きたいんだろう。』
『光秀さんは酒の調達、政宗さんは甘味と肴作り。…宴かなにかですか?』
『まぁ、いいじゃないか。ほら、戻ってやるぞ!半刻で終わらせなきゃな。』
二人は足早に城へ戻る。
広間につくと、信長は鬼気迫るほどの集中力で書簡を書き終えようとしており、三成が政務のほとんどを信長の指示でまとめ終わっていた。
『…まったく。必死すぎ。』
秀吉と家康は、急いで残りの政務をこなし始めた。
※
「お待たせ!仕事、無事に終わったんだね。」
『あぁ、バッチリさ。』
「今日もあの川原でいい?」
『…あ、うん。そういや、あの日は光秀公になにか言われた?』
「光秀さんにバレてて、それから信長様に話したよ。今日のことも知ってる。」
『へぇ。…だからか。』
「え?」
『あ、いや。じゃあ、公認なんだね。』
「うん、そうだね!」
『じゃあ、早速行こうか。』
二人はまた川原に向かい歩きだした。