第10章 天女の歌声 後編
「ただいま、戻りました。」
『あぁ。』
『具合はどうだ? 疲れただろ? …反物は?』
「具合は悪くないよ、大丈夫。反物は買わなかった。」
『そうか。さ、入ろう。』
秀吉があさひの背中を押す。
すると、光秀が、ぽんとあさひの頭を撫でた。
あさひは、光秀の背中を見つめ、その後振り返り咲を見る。
目があった咲は、微笑むと頷いた。
「…信長様、お話があります。」
その小さな声に、光秀は微笑み、秀吉は驚く。
信長は、ふっと小さく笑うとあさひの手を引き城に入っていった。
※
『なっ、反物屋と茶屋は嘘で、佐助と会ってた?
あさひ。なんだ、それ?』
広間には上座に座る信長と、その正面に座るあさひ。それを取り囲むように武将達が座っていた。
咲が襖近くに、弥七と吉之助は廊下にてあさひを見守っている。
「…ごめんなさい。」
『はぁ、…あいつは敵意もないし、あんたの護衛もしてたやつだけど…二人でなにしてたのさ。』
『信長様に黙って、逢瀬か?』
『ま、政宗!何言ってるんだ!』
『…して、嘘までついて何してたんだ?』
「…それは、。」
『言えないことか?』
信長の鋭い視線に、
あさひは握っていた手に力が入る。
「歌を…」
『…うた?』
「故郷の時代の歌を、歌っていました。」
『『『…。』』』
『ぷっ、くくっ!』
光秀が笑い出す。
『…あさひの歌声なら俺だって聞きてぇ。黙っていくなよ。』
『えぇ、以前聞きましたがあさひ様は歌もお上手でしたよね。私も聞きたいです。』
『…歌を歌うくらい城でやればいいだろう?』
「…思い切り歌いたかったから。」
『はぁ、まぁね。からかわれたりなんだりするよりは、いっそ故郷の時代の歌を知る佐助だけがいい、とか思ったんでしょ。』
「…。うん。」
『…でもな、嘘は駄目だ。城下だって何があるかわからないし、危ないんだぞ?』
「うん、ごめんなさい。」
『次はいつ行くんだ?』
『五日後、だそうですよ。』
「みっ、光秀さん!」
『行く時はきちんと言え。【ついては行かない】から。』
「…信長様!いいんですか?」
『佐助が一緒なら心配はあるまい。』
「はい、良かった。思い切り好きなだけ歌ったら、楽しかったんです。」