第8章 今日も明日も、明後日も
『なっ、どういうことだ?
あっ、信長様、お待ちください!』
砂埃を巻き上げ信長は走り出す。
秀吉と三成は、それを慌てて追い掛けた。
『はぁ。』
吉之助は、その後ろ姿を見て頭を垂れ立ち上がると、ゆっくり踵を返した。
『ずいぶんゆっくりじゃないか。』
はっ、と振り返ると光秀がニヤリと笑いながら立っていた。
『知らせに来た貴様が戻らぬとはどういうことだ?
何かあるんだろう?
あさひは、何を企てた?』
諜報を主とする光秀にはお見通し…
吉之助は、逃げられない覇気に負けあさひの仕返しを話たのだった。
『さすが我が主の奥方。小娘、やるじゃないか。』
光秀の声にならない笑い声は、吉之助の肝を冷やしはじめた。
「あ、お咲。来たよ… やるよ。
…なんかヤバい。す、ごい走ってくる。」
『やり過ぎです。』
「…へへっ。もう、やめられないよ。怖いけど。
やるよ。はい、始め。」
あさひは城門から歩き始める。
『あさひ様!お待ちください!お考え直しください!』
「お咲、ありがとう。ごめん。」
『あさひ様っ!』
咲は、涙を流し崩れ落ちるように座り込んだ。あさひは、咲の白熱した演技に驚き、笑いが込み上げるが落ち着けるように一息吐いた。
「文、書くから。ありがとう。へへっ。」
『あさひ様…』
『(もう、お側にいらっしゃいますよ。)』
咲の小さな声を聞き、表情を整え振り返る。
そこには、仁王立ちの信長がいた。
表情ははっきり見えないが、優しい空気ではないことはわかる。
(こわっ。)
あさひは、鞄を肩にかけ信長の方へ歩き出す。
何も話さず俯いて、彼の目の前に立った。
『何をしておる。』
「…。」
『何処へ行く?』
「国に帰ります。」
『帰れるのか?』
「…。どうにかします。」
『何故だ? 何が貴様をそうさせた?』
「…。」
『秘密をばらしたからか?』
「えっ、。」
あさひは信長の方を向いた。
『来い。』
あさひの手首を強引に引き寄せ、城へ歩き出した。