第8章 今日も明日も、明後日も
「お咲、結構怖いこといってない?」
『何かないのですか?』
あさひは、咲の勢いに押されはじめながらも、その仕返しを考えはじめ、口許が緩んでいく。
「私だけしか知らない急所、ならある。」
『それでございます!』
「あ、でもね。それを、言ったら後が怖いよ。」
『では、それを切り札にして。他には何かないのですか?言われたいこと、とかして欲しいことは?』
「うーん。じゃあ…。やるなら本格的にやろうか。」
そうして、あさひと咲は、信長への仕返しを考えはじめ、部屋からは笑い声が聞こえ始めた。
『さぁ、お仕度を!』
「うん、そうだね。」
あさひは、慌ただしく箪笥に手をかけた。
そして、風呂敷包みを取り出した。
着る事はないと奥に仕舞った、懐かしい服が顔を出した。
※※※
陽が傾きはじめた城門。
そこには、場違いの洋服に包まれたあさひと咲、弥七が立っていた。
すると、息を切らした吉之助が走ってきた。
『ご一行は、こちらに向かってきております!
…本当にやるのですか?』
「やり過ぎ感もあるけど…。やる!
怒ったらこうなるってわかってもらわなきゃ!
みんなも、真面目にね。笑ったらダメよ?」
『笑えないですよ。』
※
咲は、一刻前を思い出す。
『家出、でございますか?? …そこまでは。』
「ふり、だよ。ふり。
私の国では夫婦喧嘩したら、家出したりもするんだよ。実家とか友達の家に。
思い切って、そのふりをする。」
※
焚き付けたがここまでになるとは、そしてこの後を想像し、咲も冷や汗をかきはじめた。
「大丈夫。巻き込んだのは私。みんなは何も知らない。ただ、慌てればいい。
正室になるんだから。夫婦になるんだから。私だって怒ること知ってもらわなきゃ。
じゃ、吉之助さん!宜しく!」
『…っ。はい。』
吉之助は、走り出す。
城下から戻ってくる、四人のもとへ。
※
『申し上げます!』
吉之助は、息を切らしながら信長と秀吉、光秀、三成の側に駆け寄り膝をついた。
『吉之助? どうした?』
秀吉が、険しい顔付きで声をかける。
『は。あさひ様が、見慣れない装束になり城を出ると仰有っております。咲と弥七が止めておりますが、既に城門にいらっしゃり…』