第8章 今日も明日も、明後日も
『信長様は、安土城主。簡単に謝るのは…
でもな…、あさひは信長様の正室だしな…
甘味か、あまり高価ではない髪飾り等を選び、…謝りましょう。』
秀吉は、信長を仰ぎ見る。
『わかった。貴様らも付いてこい。』
『な、え。どちらに?』
『城下に決まっておろう。髪飾りなど、城にはない。あの場にいたのだ。貴様らも選ぶのを手伝え。』
『くっ、では共に詫びることといたしましょう。』
『お手伝い致します。』
『おや、秀吉は行かぬのか?』
『み、光秀!お前のせいだろ? ふざけすぎだ!
お、お待ちください!信長様!』
慌ただしく、城主と武将達が広間から立ち去っていった。
※
四人が城下に向かって行った頃。
あさひは自室で俯いたまま座り込んでいた。
咲が後ろから声をかける。
『あさひ様。』
「お咲。あの時、髪をおろすようにすすめたのは、この事だったのね。」
『はっきり申し上げられず…』
「いいの。結い上げたのは、暑かったからなんだし。
…でも、夜の事を皆に言って欲しくなかったな」
『…弥七から聞きましたが、信長様をはじめ、皆様があさひ様に贈り物を探しに行かれたと。』
「贈り物? なんで?」
『あさひ様のご機嫌をなおすため、でしょうか。
ふふふっ。』
泣く子も黙る安土の武将が一人の姫の機嫌とりに奔走する…、そんな滅多に見られない光景に咲は心底楽しんでいた。
『あさひ様、どうなさいますか?』
「どう、って?」
『夜の情事は、二人だけの秘密にしておきたい、そうお考えなのはわかります。
それを、戯れにお話しなさった殿方達からの贈り物…
簡単に受け取られ許される事で宜しいのですか?』
「…でも、相手は信長様だし。」
『…。あさひ様!もう少し我が儘になられませ!』
「さ、お咲? どうしたの?」
あまり聞きなれない咲の大声に、あさひは目を丸くした。
『信長様に、何かして欲しいことや言ってほしいことはないのですか?』
「え、急に言われても…」
『あさひ様が秘密にしておきたかった事を少しでも言われたのです。あさひ様も、信長様の秘密や何かをお話しなさってはいかがですか?』