第7章 紫陽花の面影
『差し出がましいですが、あさひ様。御母上様の記憶に蓋をしなくてもよいと思いますよ。』
「お咲…。」
『あぁ、咲の言う通りだ。寂しければ寂しいと、恋しければ恋しいと言え。』
『ふっ。今回ばかりは光秀の言う通りだ。あさひ、我慢しなくていい。』
「光秀さん、秀吉さん…。」
『そうですよ。あさひ様。』
「三成くん、…ありがとう。」
あさひは、ふふっと笑って皆を見渡した。
『祝言は、貴様の母上の元に届くような盛大なものにしよう。貴様の夫となり生涯、この身の全てで愛し満たしてやる。』
「信長様…。」
『秀吉はあさひの兄より母代わりだな。俺が兄になってやろう。三成は、弟か?』
光秀は、そう言って悪戯に笑った。
『秀吉が母代わりか。五月蝿い姑になりそうだ。』
『なっ、信長様! 五月蝿いとは言い過ぎ…』
『嘘ではなかろう?』
『あさひ様の弟とは、嬉しい限りです。』
「ふふふっ、みんなありがと。」
『お咲。我らの手が空かない時は、あさひを頼む。』
信長は、咲に向けゆっくりと言い、咲もそれに頭を下げた。
紫陽花の夢と幻にぽっかり空いたあさひの心は、いつの間にか満たされ埋まっていった。
そして、それからは母が出てくる夢を見る事はなかった。