第7章 紫陽花の面影
それから季節が一回りした、紫陽花の咲く初夏。
あさひは、信長が用意した白無垢に包まれ、政宗から贈られた鶴の簪を挿し、家康から贈られた紅をひいて、その時を待っていた。
正装した母代わりの秀吉が、声をかける。
咲の手を借り立ち上がると、秀吉が手を引いて広間へ向かう。道案内は、正装した光秀だった。
中庭に差し掛かり、あさひは立ち止まった。
想いだけでも母に届くようにと、紫陽花の咲く季節に合わせた祝言に、信長の深い愛を感じた。
『あさひ。』
紋付き袴の信長が、広間の手前で名前を呼ぶ。
紫陽花から視線をはずし、あさひは信長を見詰め微笑んだ。
後悔はない。
でも、思い出していい。
寂しいと、会いたいと思っていい。
私は、私のままで
貴方の隣で生きていく。
あさひは足先を広間へ向けた。
首元には母から貰ったネックレス。
雲間から除く陽の光が、あさひを祝福するようにネックレスをきらりと輝かせた。
いってらっしゃい。
懐かしい声が聞こえた気がした。
あさひは、もう一度、中庭の方を向いた。
そこには陽の光で色鮮やかに咲く紫陽花が見えた。
「いってきます、お母さん。」
あさひの小さな声は、手を引く秀吉と後ろに控える咲の耳に届く。
秀吉の手に力が入る。
『きっとお喜びですよ。』
咲の一言に、うん。と頷く。
愛する人の元へ続く廊下には、色鮮やかな虹がかかっていた。
完